調理実習でした
次の授業の家庭科は調理実習だったので学ランを脱ぎエプロンと三角巾を着けていると獏良に喋り掛けられた。
「わー前田くんエプロン似合うね」
「そう?」
「ぁボクのエプロンの後ろ結んでくれると嬉しいんだけど」
「はいはい背中向けて」
「わーい」
「…つかさっきから悲鳴が…」
「慣れると楽だよ」
「そんなもん?」
さっきから獏良ファンクラブ(だと思う。詳しくは知らん)と女子の熱気がすごいことになっている。多分今日の調理実習メニューがガトーショコラなのと野郎が髪結んでたりエプロン着たりしてるからだろうなあうん。しかし瀬人はめんどいのか今日学校休んでるからちょいつまらん…瀬人のエプロン見れるかと思ったのに。つかよく見たら前の方ではアテムの三角巾がめちゃくちゃになって着けられているんだけどあれで良いのかアテムは。さすがザ・不器用。遊戯は笑いながら写メ撮ってるし酷い。あれ誰か直してやらんと…って城之内はエプロン片手にハテナマーク。エプロン持って来ただけでも偉いって誰か褒めてやれよああもう…
「ちょ獏良、結べたからオレ他の奴手伝ってくるわ」
「ぇー」
「“えー”じゃねえ“えー”じゃ。お前も他の奴手伝ってやれよ」
「めんどい」
「ああもう…そこのアテムに城之内ーこっち来い」

×××

前田くんがボクから離れてアテムくんと城之内くんに話しかけて世話をやいている。ちょっとムカつくけど前田くんのエプロン&三角巾とかレアすぎるからボクも写メ撮っとこう。ほんとは一緒に撮りたかったんだけどなーボクのファンクラブの女子がさっきのボクと前田くんの写メでも撮ってないかなぁ…隠し撮りしたことは許すから一枚頂戴って言いたいよ正直。ぁあ写メ撮ってみたんだけどアテムくんと前田くんがいちゃいちゃしてるようにしか見えなくてボクとしては不愉快。どうしようこれ。KCに無記名で送っとこう。携帯だから送信主がボクってバレるだろうけどまあ良いや海馬くんこれでも見て絶句しとけついでに教室の様子も撮って送っとこ…さっきから本人は気付いてないけど幼稚園の保育士さん状態な前田くんを見る女子や男子の目がヤバイから。それにしてもアテムくん顔赤いよー前田くんに気があるってバレバレだよーて、ぁ遊戯くんにさり気なく膝蹴りされてるよあはは。前田くんがおおやけに告られないだけでかげながらモテてるって状況が今日すごい解るなあ。海馬くんなんでよりにもよって今日休んでんだろしゃちょー意味不明ー

×××

「なんか今日やけに疲れる…なんでだ…」
それになんか今日みんな目がこええんだけどオレがなにしたよ。
しかし一応平和だったのに調理実習室にて玉子を割ってる時にそれは起こった。
「ぇ前田くん玉子を片手で割れるの?!」
「ぁ?」
その声は同じ委員会の野坂さんだった。
「なに?!?」
本田もつられてオレに振り向く。なにが『なに?!?』なんだろ城之内めっちゃ笑ってるし。
「前田くんすごーい!」
「はあ…料理やってたら普通じゃね?」
この子とは委員会でしか喋ったことねえし…どうしようとか思っていたら女子が一気に振り向いてこっち見るし意味わからんわ
「前田くんって料理するの?」
「…一応自炊くらいなら」
「自分でご飯作るの?」
「…一応」
「お魚を三枚にしたり出来る?わたし出来ないんだあ」
「出来るけど…野坂さんが手とか台所を汚したくねえんならスーパーの人に頼めばやってもらえるだろ。あと“おろす”な」
「はーい」
「炊事やると手ェ荒れるからハンドクリーム塗ったら良いよ」
「前田くんどこの使ってるの?わたしはぁー」
…つか野坂さん別の班だろなんでこんなごりごり来んの?本田泣き出したよ?
「えー前田くんこっちの班の玉子も割ってよー!城之内だから使い物になんなーい!」
「はあ…」
なんなんだこの状況は…瀬人マジで助けて。とりあえずお前が居たら女子から見られはするだろうがろくに話し掛けられはしないだろうから。
「んだと女子い!!!」
「城之内うるさーい!ねえ前田くん卵白と卵黄ってどう分けたら良いの?」
「…殻使う」
「割っちゃったよー!」
「ああじゃあお玉使えば?」

×××

オレは女子から怒涛の質問責めにあいながらもカチャカチャとボールの中の卵白を泡立てる。
「ま前田くん助けて!!!」なに遊戯…」
もうオレ疲れました。って前を見るとアテムがぷるぷる震えているがこちらから顔色は伺えない。いやチワワじゃあるまいし…って
「アテムが玉子崩した!!!」
豆腐メンタルさん不器用か。知 っ て た 。オレはボールを机の上に置いてアテムの班まで。
「ああ…アテムちょい貸して…そして泣くなよそんくらいで……ん良しほれ殻取ったし卵白と卵黄分けたらから」
「前田くん…いつ死者蘇生カードを使っ…ぐす」
「泣くなて」
そしてそのデュエル脳やめーや。つか
「獏良なんでアテム放置…?」
お前同じ班だし確か料理出来るくね…?
「いやほっといたら面白いだろうなーと」
「鬼か」

×××

しまったしまったしまったこんな大切な授業がある日に商談で揉めるとは…!取引先相手のあの会社、この世から消してやるとオレはなんとも物騒なことを考えながら廊下を早足で歩いていた。目指すは調理実習室。調理実習なんぞには興味のかけらもないが佳のエプロン&三角巾にはある。というか先程、磯野に報告されたネットを使い匿名希望の学生から送られた写メ数枚が気になってしょうがない。何故佳とアテムがいちゃついているのだそして同じく嬉々としたクラスメイトの視線に晒される佳。ああぁぁあ腹が立つ憎らしい佳はこのオレの恋人だというのに!!!むしろオレが彼女だというのに悪い虫が纏わり付きすぎるわ!!!!!
オレは目の前にある部屋の扉を力を込めて開けた。

×××

「ぁ海馬くんだー」
野坂さんがそう言ったのでオレはオーブンに向けていた目線を上げた。ああほんとだ瀬人な。それを確認してまた目線をオーブンに戻した。つかこのオーブン古いな…あとは生地を焼くだけなんだが。ちゃんと焼けんのかなこれで。
「佳」
いつの間にか隣りから降る低音でオレの名を呼ぶ声。そっち向かんでも誰か分かるわ。
「ああおはよ瀬人」
「…おはよう」
「今日の瀬人なんか機嫌悪ぃの?」
声色でわかんだけど。生地は音を立ててオーブンの中で回る。
「確かに悪いな」
「ぁ?なんでy「前田くーんこっちのオーブンも見てー!」ぁあはいはい…」
「っ佳…?!」
「瀬人よちゃんと生地膨らむかオーブン見てて」
オレん家にあるやつの二世代前くらいのオーブンだかんなあこれ大丈夫かよ…
「な、何故に佳が周りの奴らの面倒を見ねばならんのだ!!」
…なんで瀬人焦ってんの?
「なんか流れd「前田くーん生地が全然膨らまなーい!なんでー?!」はいちょい待って…」
生地が膨らまねえて混ぜ方が悪かったんかなあとか思いながら隣の班の女子んとこ行ったオレを瀬人がマジ睨んでたとかこんときのオレはまだ気付かんかったわ

×××

佳に言われたので仕方なくオーブンを覗いているのだが背後からオレは名前も覚えていない女子供のきゃいきゃい喋る声が聞こえる。
「前田くんほんとに料理出来るんだねー」
だからどうした。
「お菓子作れる男子ってただでさえポイント高いのにあの外見と身長であの性格って反則だよ!」
…それには同意見だが。
「ねー!私ファンクラブ作っちゃおうかなー!」
作るな。佳がそういったものを作られて喜ぶタイプだと思うのか馬鹿めが。
「はーい入りまーす!」
入るなミーハーめ。
「あんたら獏良くんファンクラブの会員でしょうが!」
浮気か愚か者。二兎を追う者は一兎をも得んぞ。
「でもあのふたりって並んでるだけで絵になるしー」
言うなオレの方が絵になるわ。
「獏良くんの好きな人って案外前田くんだったりしないかな!」
…獏良については間違えてはいないだろうが佳はオレのものだ。そう思いながらオレが両腕を組みつつ後ろを向くとそれはもう仲が良さげな佳と獏良。ころそうか。いっそのこと。どちらとは言わんが。…今、オレと佳の目が合い微笑まれた。
「……っ!」

×××

瀬人に呼ばれたんで瀬人のもとへ。時間としてもそろそろだしなあ。
「…瀬人どうした眉間に皺寄ってんぞ」
「………なんでもない」
「なんでもないがあるか。言え」
…オレが佳の名前を呼んだ瞬間からクラスメイトの大多数がこちらを見ていることに気付かんのかこいつは。遊戯は睨んで来るしアテムの豆腐メンタルは泣きそうに見えるし獏良のやつに至っては笑顔だがどんな黒い事を考えているか解ったものでないし。オレは今までこんなサファリパークに佳を置いていたのか…これからも要注意だな…
「瀬人?おーい焼けたぞ?」
「…ああそうだな」
「???」

×××

各々の班のガトーショコラが焼けて先生に点付けて貰って(因みにオレの班は最優秀だった)、班のみんなで分けたは良いもののこれどうしようか。そんなこんなでエプロンからの着替えを含んだ休み時間。女子はやっぱり好きなやつにやるみたいで獏良んとこに長蛇の列。やっぱすげえな獏良は。……そんな獏良本人が女子じゃなくって何故かオレをガン見してくるのはシカトしとこうか。そうしようなオレ。
「ま、前田くん…」
「ぁ?…えーと」
なんて名前だっけこの女子の名前。クラスメイトだよな見たことはあるけど喋ったことねえ。
「……ぁの、これ受け取ってもらえる…?」
「は?」
差し出されるのはオレらがさっき作ったやつ。…あのこれどうやって断りゃ良いんだよ。
「ま前田くんあたしのもー!!!」
「ぁ?」

×××

憎い憎い憎い女子どもが憎たらしい…!ひとりを皮切りに何人が佳を見ていると言うのだおのれええぇ!!!とか憎しみを込めて睨みつけていたら、意外にも佳は手ぶらで帰って来た。
「大きい声では言えんが疲れた…」
「…なんだ、貰ったのではないのか」
「なんで瀬人拗ねてんの」
「ふぅん。自分の心に聞いてみたらどうだ」
「…ああさっきの?」
「それ以外に何があると言うのだ」
「…オレの恋人がやきもち焼きだから貰えねって正直に言って断った」
「……………………………………は?」
今なんと言った?
「…佳…?」
「オレには瀬人が居るからな」
「……ッ!!!」
まずい。
“あの”佳がそんな事を言うとはまったく思っていなかっただけに顔がにやける。うれしい嬉しいうれしい…!どうするかオレ!佳の顔を見ると照れたような表情をしているしこれは良い雰囲気なのでは…
「まあ瀬人の名前は出さんかったk「前田くん!!」ぁアテム。どうした」
「うまく焼けたと思うので食べて見てはくれないか!!」
「ぇ?あのいや「消えろ邪魔者ォオオオオオオオ!!!!!」瀬人うっせえ!!!」


調


(なんで海馬が前田くんを独り占めするんだ!!)
(やかましい!!!)
(もう一人のボクと海馬くん五月蝿いなあ…あボクのも食べてー)
(やっと女子から解放さえれたー前田くんボクのもー)
(…いやあの…)
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