御伽がアンニュイ
ボクは前田佳くんのことが好きである。そして多分佳くんもボクのことを好いてくれているのだと思う。…いや“思う”っていうかただボクが“そうだったら良いのに”という希望の感情なのだけれど。だって普通の奴は嫌いな奴…この場合はボクだけど、と同じベッドで眠ってくれるのだろうか?そんな訳がないと妙な自信だけはある。佳くんと同じベッド、…残念だけどまだいやらしい意味ではない、を共にしてどれほど経っただろうか。はじめはボクが佳くんの家に遊びに行ってゲーム等をしているうちに共に寝落ちてしまったというだけなんだけどいつの間にかずるずるとこうなった。ボクは以前から佳くんのことが好きだったからラッキーだったと言う以外に何があるというのだろう。あのときの目が覚めたときの幸福感ったらなかったんだ。

…好きだよ、佳くん。

「ん?龍児なんか言った?」
「言ってないよ」
今のボクは佳くんのベッドの上。佳くんも同じベッドの上。もとから慢性的な不眠症のボクだけれど佳くんのそばに居れれば何故か眠ることができた。佳くんの隣りに居る時だけ静かにまるで海に沈んでいくかのように良く眠れた。それを好都合とばかりにふりかざすボク。そんなボクを佳くんは優しく受け入れてくれた。なんてお人好しなのだろう。それを利用するボクもボクだけれど。
「…佳くん」
ボクはうつ伏せ寝で枕を抱えていた。佳くんは多分まだ身体を起こしている。ー…“多分”というのはボクが佳くんへと振り向けないという非常に情けない理由からだった。
この感情はなんなのか。
自己嫌悪?
ボクは枕をぎゅううと抱きしめ顔をうずめた。
好き
すき
すきだよ
ごめん
ごめんね佳くん

「ー…龍児またろくでもない事を考えてんの?」
ぎしりとベッドが悲鳴を上げた。だってこのベッドはひとり用だ。佳くんとボク、ふたりが乗っているのだからしょうがない?
「…ボクが自分の首を切り裂いたら佳くんはどう思うかと考えてみただけだよ」
「手首じゃなくて?」
「手首なんて切ってどうするのさ。死ねないのに」
切るなら首だよ、とボクはそう付け加えた。…なんでボクってこんなのなのだろう。産まれたときからポンコツのどうしようもない脳味噌。
「ー…そしたら」
「え?」
「龍児が自分の首をかっさばいたら
…オレが縫ってやんよ。
ソーイングセットで良ければ」


その言葉がボクにとってはプロポーズの言葉に聞こえた。ああ、ボクはいよいよどうしようもない。

ただ涙が流れた。






(ソーイングセット持ってるの?)
(うん常備してる)
(じゃあいつでも大丈夫だね)
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