海馬社長の深層心理
「佳、佳」
オレはまるで迷子になった子供が母親の名前を呼ぶかのようにそう口にした。それなのに佳はオレに背を向けこの場から去ろうとする。何処へ行く、オレを置いて。そんな言葉が口から出そうになるが飲み込んで、ただ右手を佳へと伸ばしたが掴めずに終わる。
そんな夢を見た。

×××

「っはぁ…はぁ…」
オレが飛び起きると自室のベッドの上だった。やけに隣が暖かかったので布団をめくるとやはりそこには前田佳本人が丸まって眠っていた。昨夜の事を思い出すと佳がここに存在するのは当たり前でオレは腰が痛むのが解る。夢も現実も少々憎たらしく思い布団の中の暗がりを覗き込むと佳は頭身の高いハムスターのようだった。佳にそう伝えればなんと返事をするだろうか。しかし寒い。オレも佳に習いごそりと布団の中に身体を埋め、丸まっている佳の身体をもそもそ解きその腕の中に収まった。その時佳の目が覚めるかとも思ったがどちらでも良かった。ただ佳はごそと身をよじっただけだ。オレの隣にぴったりと存在する佳の温もり。ああ安心する。暖かい。しかしオレは先ほどの夢について自嘲した。今考えても馬鹿な夢だった。何故なら佳は実際にオレの隣にこうして存在すると言うのに。だが夢というものはオレの深層心理を鏡のようにうつしているのかもしれない。オレは佳がオレから離れることを恐れているのは事実だ。嗚呼それならいっその事ー…





(佳をここに監禁してしまおうか。)
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