ひとりごと
(あなたと手を繋ぎたい)
幼い頃にそうしてくれたように彼女は今も僕の隣に座って微笑む
ねえ、今の僕は君を上手に愛せてる?
眼帯の下、もう零れない筈の涙が滲んだ気がした
【九兵衞】


(行き場もなく)
あなたが俺の名前を呼んで
優しく微笑む夢を見た
目を覚まして一番、あなたに会いに行く
駆け寄る俺をあなたが勢い良く投げ飛ばして転がる地面の上、嗚呼、あなたが好きだ、そう思った
【近藤】


(海の色を忘れた)
「姉御がやってくれたのヨー」
綺麗に色を付けられた爪を嬉しそうに見せてきた女の格好は淡い色をした膝丈のワンピース
肩から掛けた小さなポシェット
いつからかお団子を作ることをやめた桃色の髪
「へえ、姐さん器用だねィ」
例えばもういつから殴り合いや罵り合いをしてないかとか、お前はそんなことを考えてる俺に気付きもしないまま女になる
【沖田】


(幼子はもう居ない)
ある人の、面影を見た
最愛の人の、面影を
男の名前を呼ぶ声は自身もよく知っている優しさを孕んでいて、でもこの人は確か俺と同じ歳
「姉ちゃんってのはすげえもんだねィ」
「そうですね」
はにかむ彼を少しだけ羨んで、帰りに花屋に寄ろうと決めた
【沖田と新八】


(聞こえるもんか)
見慣れた男の顔に自分が付けたものではない傷が一つ
知らない振りをしてその傷とは反対側の頬を殴ればきっと、さっきのどきりと跳ねた心臓の音なんて簡単に消えてくれる
【妙】


(靴箱にラブ・レター)
そいつは束になったそれをまともに見ないままゴミ箱へと捨てた
その中の一つが下手くそな字で書かれたたった一つの言葉だと私は知っている
こうして伝わりもしない思いをどうか私ごと捨ててくれないかと横にいるそいつを睨んだ
【神楽】


(来なくていい未来の話)
「菊は、舞うんだヨ」
とどこかから得た知識を誰かに聞かせたいだけの女が言ったので
「桜は散るんだぜ」
と答えた
答えた後、こいつは舞いそうだと考えていたら
「お前は散りそうだナ」
と返され、互いに少し笑った
もしも望む最期が叶うなら、俺は多分この女と死にたい
【沖神】


(戯言)
緑色の髪、体温のない青白い肌、抑揚の無い声
時折見せるカラクリのそれではない笑顔
この人は、一体どれだけの時間を生きていくのだろう
この造形を保ったまま、どれだけの死を看取るのだろう
そんなことを考えて、その中に含まれないであろう自分に少し、安堵した
【山崎とたま】


(萎れた花にも綺麗だと笑いかけるあなたが嫌い)
私がどんな風に笑っていたって彼は今日も素敵ですね、なんて言ってそれを褒める
それが例えば無理矢理に張り付けた偽物と呼ばれるものだとしても毎日同じように
彼は、だって本物なのだ
気付いてから上手くあの人の頬を叩くことも出来ない
そんな私を知らずにあの人は今日も私に好きだと言う
【妙】


(空が軋む)
舞った砂埃の向こう側、そいつの背を向ける姿が見えた
眉間に力を入れて眉を顰めてわざとらしく舌を出して出来る限り憎らしい顔に仕上げる
さようならと言ったら舌を噛んだ
【神楽】


(誰そ彼)
似てる。ただ一言、感想はそれだけだった
変化しない表情
人形みたいに整った顔
その、癖一つない黒髪が私の胸を貫く
鋭い目つきはあいつのそれと同んなじ
ねえ、誰か教えて、私のこの心のざわめきは一体なに
【神楽と信女】


(血の色とは誰も言わなかった)
その色は、自分の情熱的な恋心を表す色だと馬鹿げたことを言った上司と、気に食わない色だと吐き捨てた部下
各々、誰を思い浮かべているのか知りたくもないけれど、なぁ、俺もその色を聞いて思い出したのはあの強烈な味だったよ
【土方】


(繋ぐ手なんか持ってなかった)
お前の命とやらは何色だろうと想像して、例えばそれが散るとき私はそのそばに居ないのだろうと知る
あの馬鹿な上司の為に使うと決めた腕を私の首に回したりするお前を今ここで殺せてしまえたら
考えて、そうして飲み込んだ息の吐き出す場所を失いないながら舌打ちをした
【神楽】


(滲む)
いつの間にか知ってしまったその手の体温や柔らかく細める目
目が覚めて一番、視界に入る閉じられた瞼の上にキスをするのに理由を挙げるのなら言葉に出来たことのない愛とやらを伝えたいと思ったから
そんな馬鹿げたことを考えてその頬を小さく叩けば狸寝入りのそいつは愉しそうに声を漏らした
【沖田と神楽】


(鵺に恋した)
「鈍いわけでもないくせに」と言ったら「なにが?」と気だるそうに頭を掻いた
「なにが?」と聞く男はきっと全てを分かっていて、それでもその心に踏み入ることを許してくれないのだ
腹立たしさに踵で男のブーツを踏んだら痛ぇと喚いた
痛いのはこっちの方だ
【月詠と坂田】


(花を手折る)
床に座ると藤色の長い髪がペタと下について少し広がる
その毛先を椅子に座りながら眺めた
「俺のどこがいいんだか」
「全部よ」
「違ぇだろ、さっちゃん」
俺の声に顔をこちらに上げる
俺に名前を呼ばれたとき、彼女はとても嬉しそうに微笑む
「俺がお前を好きになんかなんねえところだろ」
【坂田と猿飛】


(仄か)
「ちとは女らしくなったかのぉ」
出会った頃より伸びた毛先を摘まんで男が言う
女らしく
女として見たことなどない癖に偉そうな事を言うもんだと鼻で笑うと「可愛げのない」といつもの腑抜けた顔で一言返された
男の手から離された自身の髪を、今日の夜、きっと私は丁寧に梳くのだろう
【坂本と陸奥】


(真っ赤な糸を結んであげる)
白い部屋、白いベッド、白い照明
何もかもがそいつには不釣り合いに見えた
なんだ、詰まらない
どうせならいっそのこと、そう思って姫様に耳打ち
「盛大に弔ってやりやしょう」
病なんかでくたばるお前ならさっさと逝っちまえ
【沖田】


(水のような)
「早死にすんぞ」
吐き出す紫煙を見ながらぼやいてもその火は消されなかった
「私より先に死なれるよりましさ」
皺くちゃの手を見ながらあんたの居ない世界を生きるのはなるほど、随分しんどそうだと酒を呷った
【銀時とお登勢】


(目を伏せる)
空を見上げる横顔は、男の人とは思えないくらい綺麗に見えた
「神楽ちゃんが好きになる人です。私も好きになるのはおかしくない話だと思いません?」
「冗談はよしてくだせェ」
欠伸をしながらそう答えた人
冗談で済めばよかったのに
私からあの子を取るなんて、酷い人
【そよと沖田】


(夕凪に沈む)
出会った頃と変わらず凛と美しい
その姿を見たときだけ、ああ、あなたと同じ女でよかったと思う
この人を護ることが出来るのなら
そう思って付けた頬の傷を一撫で
かつて、光だと思ったのはあなただけだった
今はあの鈍い銀色が邪魔をする
【月詠】


(落下する)
眼鏡の奥、俺を見るその目は、彼女が好きだというあの人に向ける目とは随分と違う。
だけれど俺は、彼女が自分に向ける冷静で落ち着いた目が、好きなのだ
それと同時に彼女があの人に向ける盲目的で熱を帯びた目も、堪らなく
「なんていうか、俺は、こう、救いがないな」
「救われたいだなんて思ってもないくせによく言うわ」
【猿飛と山崎】


(笑わないシンデレラ)
そろそろ時間だ
横目でお客の腕時計を見て確認するのは自分の退勤時間
今日もあの人は来なかった
そんなことを考えてしまえばまるで私があの人を待っている見たいで嫌だわ
嗚呼、今日も一日が終わる
【妙】





.


あきゅろす。
リゼ