泣けもしない
赤らんだ頬を、見てしまった
伏せる青い目。撫でられてはにかむ姿
出会った頃のそいつは14のガキで、それが気付いたら大人びた顔して俺の隣で笑うようになった。
それでも中身は生意気な糞ガキのままで、だから俺は高を括っていたのかもしれない
街で見かけた見慣れた女。隣にいるのは変わらない二人の男。歌舞伎町にすっかり馴染んだいつもの風景
だけれど、気付いてしまった
ほんのりと色付けられた唇がその名前に合わせて動く。心底嬉しそうに、笑う。ああ、あれは親愛の情と言うにはあまりに汚れた、しかし少女に似合う可憐な恋心である
なんだ、それは
気付いてしまった。あの少女の恋に気付いてしまった。知りたくもない感情。これはなんだ
旦那だと、思っていた。
あの男の背中を追う姿を知っていた。
少女が、思いを寄せる相手はいつかあの人になるのだろうと。幼い顔立ちをした、いつかのあいつを思い出す。こいつは、旦那に向ける感情を恋と呼ぶ日が来るのかもしれないと思ったことが確かにあった
「なんでィ、そりゃ」
旦那なら、よかった
それなら、奪ったのに
掻っ攫ってやったのに
赤らめた頬、伏せる青い目。その頭を撫でるのは、それは、だって、俺とはまるで違う男
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