言えない話



太陽みたいに笑う人でした。
豪快に、その癖優しく笑う人でした。

大きな背中に飛び付いたりしたらはしたないと怒られてしまうでしょうか。いいえ、きっと私の頭を撫でて歯を見せて笑ってくれるのです。

幼い頃に、恋をした相手を今もまだ忘れられないでいる。

「お、栗子ちゃんじゃないか」
「あら、お久しぶりでございまする」

いつか、妹のようだと言ってくださった。その時の私の気持ちなど、きっと想像もしない、この大好きな笑顔。栗子、噂で聞きましたのよ。真選組の局長様がある女性に恋をしたんだとか

一体、どんな人でしょうと想像もしましたの。大人っぽい、綺麗で淑やかな人なのだろうなあ、と勝手に。

「大きくなったなぁ。それに綺麗になった!」
「栗子は昔から綺麗でございまする!」
「あはは、それもそうだ」

声を上げて笑うその空気がとても心地好かった。私、今、ある男性とお付き合いをしてるんです。だけれどそれでも変わらないのですよ、初恋の人はいつまでも好きなのです。

年は同じくらいでしょうか。私より長い、栗色の髪。一目見た瞬間、綺麗だなあと思いましたの。その細い腕は私のものと変わらないように見えるのに殿方一人を悠々と投げ飛ばして、にこりと涼しげに微笑んだ人。それを遠目に見て、思わず口を開けて驚いてしまいました。

投げ飛ばされた殿方が、「結婚してください」ともう一度女性に飛び付こうとなさって、それを一蹴。すたすたと歩いていく背中を見て、栗子はどんな気持ちになったと思います。

「ゴリラ様、今日はお仕事はないんでござりまするか?」
「ゴリラじゃないよ!ねえ、栗子ちゃん!!なんで!!昔はあんなに懐いてくれてたのに!」

昔は、なんて。今でも栗子は変わりません。ただ、少しくらい意地悪してもいいじゃありませんか。

「ゴリラ様、栗子、急いでござりますから、ではまた」
「あ、ああ。ごめんね、栗子ちゃん、とっつぁんによろしく。気をつけて」

私には真似出来ないから。あの、あなたが愛した女性のようには決してなれはしないから、それならば仕方がないでしょう。初恋は叶わないというのが通説だと聞きますし、それでも別に栗子は構わないのです。その大きな手のひらで今も私の頭を撫でてくださるならそれで。

(嘘です、私、あの女性になりたかった)


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リゼ