嘘つき
優しいだけの男なんて、欲しいと思わない。
どんな人と付き合いたいって話題になると、決まって一人はその条件として優しさを挙げる。
優しさなんて、残酷なものだと思う。
大切なのは思いやりだ。
人付き合い、どんな間柄でも求められるのは優しさなんかじゃない。
上司には決断力と指導力、そして時には厳しさを求める。
部下には柔軟さと素直さを求める。
同僚には信頼を求める。
友人には癒しとあっけらかんとした楽しみ。
恋人には…そうね、上手な嘘と絶対的な安心感が欲しい。
結婚相手なら、やっぱり安定だろうか。
どんなに相手を好きでも、それだけじゃやっていけない。
どんなに優しい人でもそれが役に立たないことだってある。
どんなに人を好きになっても、相手がその気にならなきゃ意味がない。
時には嘘をつくことだって必要だ。
何かを守るためには仕方がないことだってある。
いちいちそれに一喜一憂してなんかいられない。
だから知らないふりをする。
防衛本能。
大切なものを守るため、
大事な誰かを守るため、
真実だけが人を救うとは限らない。
人間が動物として生まれてきた本能に近い。
それに従うまでだ。
友人達の幸せそうな結婚式。招待されたそれはどれもすてきだった。
でも、ちっとも羨ましくなんてない。
結婚という契約なんて、家族という名の、ただの足枷じゃないか。
そんなものがあるから、どれだけ渇望しようと、手に入らないものがある。
わたしは知っている。本当に欲しいものは手に入らないって。
それでも、どこかで私はもう一度期待したいとも思う。
本当は誰よりも知っている。
気づかないふりをして本当は誰よりも一番関心を持っている。
私の愛おしい人
私の誰かの愛おしい人
私の愛した人は、誰かの愛おしい人。
彼は今日もこうして嘘をつく。
大丈夫。
好きだよ。
愛している。
ほらね、残酷でしょう?
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