四つ葉のクローバー
どうしても四つ葉のクローバーが欲しくて、近所の河川敷で、あっちでもそもそ、こっちでもそもそと、手当たり次第に一面クローバーの生い茂るその場所を行ったり来たりして探した。
あんまり簡単にはみつからないから、みつけられる人とみつけられない人、どっちの割合の方が多いんだろうかなんて考えてみた。
同じクラスのサキちゃんは、ほんの10分の休み時間のうちに、呆気なくみつけてしまっていたから、なんだか悔しい。
『あると信じて探していないからよ。』
頭の上から見兼ねて落ちてきた声に、不服そうに答える。
『…あるのは知ってるよ?』
『しってるだけじゃダメなのよ』
『だったらママも一緒に探してよ。』
『私が見つけても意味がないでしょう?』
『なんで?』
『人に見つけてもらうよりも、自分で見つけた方が嬉しいじゃない。』
『ママは幸せになりたくないの?』
『あら?レイは今幸せじゃないの?』
『…そういうことじゃなくって』
そんなこと言われたら何も言えなくなってしまう。
自分が幸せって考えたことはないし、運がついてるついてないってことくらいしか解らなかった。
『ただ探していては見つからなくってよ』
『?』
『あると信じてるから、見つかるの。知ってるだけじゃダメなのよ。』
『どうちがうの?』
『そうね、沢山の人の中から、本当の友達をたった一人だけ見つけることに似ているわ。』
『一人だけ?』
『四つ葉のクローバーは、その縮図みたいなもので、見つけてお守りに持ってるから幸せとは限らないのよ。』
レイはママのいうことが益々ちんぷんかんぷんで、なんて言ったらいいのか解らなくて黙ってしまった。
幸せってどんなものかなんて知らないけど、きっと今よりもっともっと良いことなんだろうなって期待感を募らせていた。「四つ葉のクローバーを見つけると幸せになれる」って。
『どんなに幸せでも不幸せでも、友達が一人もいなかったら寂しいでしょう?』
『…さみしい』
『レイは四つ葉のクローバーが沢山あるのにひとりぼっちなのと、クローバーがなくてもお友達が沢山いるのと、どっちがいい?』
『お友達!』

きっぱり言い切れば、ママは満足げに優しく微笑んで頭を撫でてくれた。
『クローバーもお友達も探して見つけるんじゃなくて、信じているから見つかるの。クローバーが幸せにしてくれるんじゃなくて、幸せだって信じているから幸せになれるのよ。』
『…よく解らない。』
『きっと、そのうちに見つかるわ。』

ママはそう言って聞かせると、今日はもう帰りましょうと手を差し出され、その手を掴んで立ち上がる。
ママは優しい表情で、でも少し遠い目をしながら、きっといつか、レイも誰かに見つけられちゃうんだろうな、なんて言うから、何処かさみしそうにも見えて、そう聞けば、嬉しいことなのよ、と言ってまた頭を撫でてくれた。

ママが乗せて来てくれた自転車の後ろにぴょこんと跳び乗る。
ふと空に目をやると、いつのまにか夕日が真っ赤に燃えていた。
それがあんまりにキレイだったから、クローバーは見つけられなかったけれど、なんだかとってもついているような気がした。



end
- 13 -
[*前へ] [#次へ]
戻る
リゼ