・近すぎず遠すぎず
かくれんぼは得意だった。
鬼になったらあっさりと見つけてしまうし、隠れたら一度だって見つかったことがない。
結局もう出てきて、と頼まれてひょっこり顔を出すことがいつもだった。
だから、ひとりになりたいときはいつだって自分にぴったりな場所を見つけることができる。
誰にも邪魔されないで好きな本を呼んだり、こっそり好きな人をのぞきみることも
嫌なことがあって泣きたいときも。


なのに、だ。
こいつはいつも気づくとそこにいる。
近すぎず遠すぎずのところで、何を言うわけでもなくいつもニヤニヤしてそこにいる。
気配すらなくいつの間にか当たり前のようにいる。
神業。
上には上がいるものだと幼くして知った。
ほら、また今日もいる。


唯一の自分の特技なのに、それを奪われたら取り柄なんてないのに。
なんだか悔しい。
誰にも見られたくなくて、独りになりたくて、絶対誰も来ないと思ってここで泣いてたのに、よりによって何故こいつにばれてしまうんだろう。
いつも何時からそこにいたのかなんて解らないけど、気の利いたことくらい言ってくれればいいのに。 
不愉快。
それがぴったり。




昔っからそう。
今度こそここならばれないだろう。
ここまでくれば解らないだろう。
そうやって選んでいるのに、いつもいつも見つかってしまう。
何時からいるのか相変わらず解らないし、泣き止むまでいつも気づかない自分もどーかとおもうけど、こんな顔を何時から見られてたんだろうって思うと居心地が悪かった。
けど、それを誰かに言い触らすわけでもなく、なんで泣いてたのかも聞かないで、変に慰めるわけでもなく、普段通りいやみっぽくて皮肉でデリカシーのない冗談しか言わないから、惨めな気持ちにならなくてすんだ。

泣いてる最中はいいけど、泣き終わったときいつも自分がぽつんと世界においてかれてるようで寂しくなる。
悔しいけど、
こいつのおかけでそんな気持ちにはならなくてすんだから、少しはましだった。


きっとこいつもかくれんぼが得意なんだろうな。
いつもどおり一人になれる場所を探して泣きはじめそうになったら、先にこいつがそこにいたことがあった。 
ニヤニヤ近づいて来たから、場所を変えようと思っていたら、めずらしく頭をポンと1回だけ軽く叩くように撫でてくれた。
思ったよりも優しく感じたら、一気に泣き出してしまった。
何も言わないし、それ以上頭を触る事もなく、近すぎず遠すぎずのところで、何を言うわけでもなく泣き止むまでいつもどおりそこにいた。


学校内では先生からの評判がいい訳でもないらしいし、性格も捻くれて普段から意地悪っぽいこともするし言うし、顔も意地悪っぽいのに、本当は優しいのかも知れなかった。





そんなこいつ、
今私の目の前で、思い切り人を殴った。





こいつこんなに怖い顔するんだっけか?
もっとニヤニヤしてなかったっけか?
色々考えてると、さらわれるみたいにグイグイ二の腕を引っ張られた。お前の肉って掴み心地いいなと、余計な一言つきで。
言い返そうとしたら、とにかく来いとさらに引っ張られた。
既にさっきから人前で我慢できなくてわんわん泣いてしまってたし、こいつにはいつも全部ばれちゃってるんだし、この際もう諦めて何も気にせずわんわん泣くことに決めた。
だんだん疲れてきてヒクヒクしてきて、息もしにくい。
もう原因も何だったか忘れちゃったけど、泣き止めない。こんな時くらい何か気の利くことくらい言ってくれればいいのに。
いつかみたいに頭を撫でるくらいしてくれればいいのに。
きっとあたしが泣いてる間ずーーーっとこいつは気配消して、あたしの泣き顔見てニヤニヤしてるんだろう。
今だってその証拠に、自分の右側にいるのか左側にいるのかも解らないし、もしかしたら近くにいないのかも知れないくらい、こいつの気配がない。



『レイ』



ハッキリと名前を呼ばれてびっくりして、泣くことも忘れ思わず顔をあげる。
今自分が考えていたことが筒抜けだったのだろうか?だったらかなり恥ずかしい。
こいつは右でも左でもなくて正面にいるらしかった。
それよりも、初めてこいつに呼ばれた自分の名前にとんでもない位ドキドキしてしまった。


『なんだよ、その顔』
そういわれて垂れ流しの鼻水とか、擦りまくった目がグチャグチャなのを思い出した。
いつもの何倍も楽しそうに笑ってる。
なんか悔しい。
ってかムカつく!
ケラケラとこれでもかって笑われて、改めてショックでまた泣けて来てしまった。

『お前鏡みてみろよ、すげーよ』
強引に鏡の中の自分を見せられた。
女の子にそんなことさせなくてもいいのに。グチャグチャなのは充分解ってる。

『最高に笑えるだろ???』
鏡越しにみたその顔は、新しいおもちゃを見つけたみたいに目をキラキラさせていた。
そんなふうに言われたら、くすぐったくて、文句の一つ二つ言ってみたけどびくともしない。
悔しいけど、笑うしかなかった。
でれんでれんに甘やかしてもらうには、この人では難しそうだ。






近すぎず遠すぎずのところで
いつもと違うのは
いつもよりも嬉しく笑っている自分と
名前を呼ばれたこと
こいつが人を殴ったこと


end
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