「…んぅ…」

なんだろ、身体が金縛りにあったみたいに重い。
もう朝だろうか…あ、頬を撫でられた…ん?撫でられた?

はっと目を開けると、寝ていた自分の上に見知らぬ男が乗っていた。
え…綺麗な人だな、ってなにこの人!

「あ、起きたの?」
「あわわわわッ」
「良かった。寝たままだと子作り出来ないか、ッぐは!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」

とりあえず、股間を蹴飛ばしてやった








「………父上、この男は一体何者ですか!!」

あの後叫び声を聞き付け父が助けに来たが、どうやら変態男と知り合いのようで先ほどから普通に朝ごはんを共にしている。

「藤内…こちらは綾部喜八郎、お前の許嫁だ」
「いいな…って、はぁ?!」


我が浦風家は由緒正しき武術家の一族である。現当主は父であり、自分は女であるが跡継ぎとして幼き頃より武術に明け暮れていた。
確かにいつかは自分も親が連れてきた男性と結婚する日が来るとは覚悟していたが…まだ早いし、いきなり子作りしようと寝込みを襲う男を連れて来られると思わなかった。

しかも綾部といったら…
ちらりと黙々と箸を進める変態男を盗み見みてやる

「…お前が察しているように、喜八郎は我ら浦風一族と対立しあっていた綾部一族の者だ」
「父上…なぜそのような方に!」
「お前にはより強い子を産む義務がある…あと綾部一族の現当主と私は仲が良くてな。若い頃酔った勢いで互いの子供を結婚させようと約束してな」
「明らかに後者の理由だけでしょ!!」
「…藤内、落ち着きなよ」

さっきまでずっと黙っていた変態男が立ち上がり肩をそっと抱き締める

「な?!何するんですか貴方は!」
「…喜八郎」
「………は?」
「名前をちゃんと呼んで」

ぽかんとした頭に、若いっていいなぁと笑う父の声が響く。
もぅ我慢出来ない


「父上なんて大嫌いです!!」








父に怒鳴り散らし、早々と自室に戻った…いつもいつも父は自分を振り回す。

本当は、女の子らしく可愛い着物を着たり甘いものを食べたりしたかったのに…武術家に生まれた定めとして、すべてを振り払い今まで稽古を積んできた…なのに今度は女として早く子を作れだなんて。

かた、と物音がして振り向くと変態男が立っていた…

気配を全然感じ取れなかった…この人、出来る。

「お、女の子の部屋に勝手に入らないで下さい!」
「まぁ…私と藤内の仲だしいいじゃない」
「初対面でそんな仲になりません!」
「……初対面じゃないよ」
「はぁ?」


どうやら変態男…綾部喜八郎の話によると、幼き頃数回父に連れられて一緒に修行したり遊んだ事があるようだ。
しかしはっきりとは思い出せない…なにしろここには門下生が沢山いるから、幼き頃一緒に遊んだ子などわんさかいる。

「あの頃の藤内とても強くて…よく女みたいだといじめられていた私を助けてくれたよ」
「……はぁ」

先程から変態としか見てなかったけど…確かにこの綾部喜八郎は女のように綺麗だった。
もしかしたら自分より女らしいかもしれない。

「…本当に覚えてないの?」
「はぁ、すみません」
「私が弱かったから『きはちろうをめとってずっとまもってあげる』って言ったことも?」
「そ、そんな事言ったんですか?!」

は、恥ずかしい…確かに子どもの頃やんちゃだったからなぁ、それくらい言ってそうだ。
あたふたしていた自分に、綾部喜八郎はそっと近付き手を握る

「な、なんですか?!」
「私ね…藤内と結婚出来るよう修行頑張ったんだよ。今度は私が藤内を守れるように」
「えっ…ぁ、はぁ?」

稽古ばかりでこういうのに免疫がないからどうしたら良いかわからない。
混乱していると、綾部喜八郎は体重をかけ押し倒してきた。
は?!これは寝技をかけたとか、そんな事なのか?!


「藤内…」

「は、はい?」

「とりあえず…子作りをしよう」



父上、結婚するまえにこの変態男をタコ殴りにしそうです
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