隠れる(綾←浦)
それは良かったですね


「隠れる」




それは三年生実戦演習の時に見つけた。

裏山全体を使っての実戦演習で、僕は身を潜めながら移動していた。演習内容は簡単で、どんな手を使ってもいいから相手のハチマキを奪えばいいものだった…懐にはすでに四本入っている。あとは時間が過ぎるまで身を潜めていようと思った。
しかし…昨日の雨で地盤がかなり緩んでいるなぁ。数馬とか転んでないといいけど。

草木に守られながら外の様子を伺う。すると誰かが倒れているのが見えた…あれは囮か?でも本当に怪我をしていたら大変だ。
僕は警戒しながら近付くと、見慣れた黄緑の制服ではなく紫色が見えた…あ、あれって。

「綾部先輩?!」

同じ作法委員会の先輩である綾部先輩が倒れていた。その美しい顔は血の気が引いていて、所々傷や泥で汚れている。

「あ、綾部先輩しっかりして下さい!」
「………ぅ、」

息はしているが、あまり具合は良くなさそうだ。
僕は急いで携帯していた治療用の袋を取り出した…数馬が絶対役に立つからって持たせてくれたものだ。
とりあえず近くの川から水を運び、傷の手当てをした。

「ふぅ…とりあえず応急処置終わり!」

仲間から取ったハチマキを手拭い代わりにし、綾部先輩の顔を拭ってやる。
…そういえば、こんなに近くにいるの初めてだ。

初めてその美しい姿を見てから、僕は目のはしでいつも彼を見ていた。それが幼い恋心だと気付いた事、また同時にこの思いは叶わないと悟ったのはつい最近の事だ。
やっぱり…ドキドキする。先輩は今苦しんでいるのに、僕って本当に駄目な人間だな。


しかしなぜ彼がこんな所に…辺りを見渡してみると、少し石が転がっている少し高めの崖を見つけた。
まさかあそこから?あそこは裏裏山に続く道だ…四年生も実戦演習があったのか。
少しでも早く助けてやりたいと思ったが、ふと身体が動かなくなる。

そうだ…四年生と仲が悪い三年生が助けたとしたら綾部先輩はどう思うだろうか…
綾部先輩とは喧嘩した事ないけど…やっぱり三年生に対して良い印象なんてないよね。
急に胸が苦しくなってきた…馬鹿だな、今は綾部先輩を助けるのが先だろう?



僕は崖を登り、近くに四年生がいないか探してみる。流石三年生と違ってうまく見付からなかった。しかし暫くすると、緑の中に紫が動くのを見つけた。


あ、あれは確か…田村先輩?
彼のお気に入りのサチ子を連れて、辺りをキョロキョロしていた…この人に綾部先輩を助けてもらおう。

僕はなるべく彼だけに聞こえるよう声を出す。

「田村…の馬鹿」

「なにぃ!今私を貶したのはどこのどいつだ!」

うまく引っ掛かってくれたようで、声を発した僕を追いかけてくる…崖まで誘き出せば綾部先輩を見つけて、助けてくれるだろう。

「くっそ!まて〜!」
「ここまでおいで」
「馬鹿にしおッ!うわ崖か…ん?あれは喜八郎!!」

あぁ良かった…彼を見付けてくれた。
田村先輩は綾部先輩のもとへ行き、彼を担いで去っていった…きっと医務室まで連れていってくれるだろう。

僕は役目を終えた…そう思うと、どっと身体が重くなるのを感じた。

良かったじゃないか助けられて…

高望みなんてするほど僕は…










実戦演習があった数日後、綾部先輩が沢山の団子を持っていた。

「…あ、浦風だ」
「綾部先輩…どうしたんですかそんな沢山のお団子」
「この間、三木に助けられたからね…そのお礼」
「…そうですか、お怪我をなさったのですか?」
「うん…でも早めの応急処置で大事にはいたらなかったよ」
「…そう、それは良かったですね」
「うん…じゃぁね」



良かった怪我が治って…

でも、凄く胸が痛い


良かったじゃないか…

良かったんだよ


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