弱み(綾浦)*
なぜ、こんな事をしているかわからない。身体を駆け巡る快楽と、それを食い止める絶望感が繰り返されもはやなんの為の行為なのかが分からなかった。
「ッいゃ…もぉ、あ!」
「…段々限界が早くなってきたね?」
「ふぁ…おねが…イかせてッ」
「だめ。これは藤内の為なんだよ?」
「あぁ…ッん」
夜、いつものように念入りな愛撫が始まって、契りを交わすのだと思っていたのに。喜八郎はいきなり変な事を言い出した。
『藤内…持久力を高めようか?』
『じきゅう…りょく?』
『そう…すぐイかないようにね』
そうして始まったのがこれ。僕の高まったソレをしごき、イくギリギリの時に愛撫を止めるというものだ…タイミングをずらし、衝動を我慢することで持久力は高まるらしいが…行為だけでも不馴れな僕にとっては地獄そのものだ。
喜八郎は、ソレに舌を合わせたり袋を揉んだりとエスカレートして僕を追い詰める。
「ひゃぁッ!…喜八郎!」
あまりにも強い快楽に、喜八郎の柔らかい髪を無意識に掴んだ。もしかして、これは僕を苦しめる為の行為なのだろうか…急に切なさが込み上げてきて視界がボヤけてくる。
「んっ…藤内?泣いてるの?」
「うッ…ふ、…」
「よしよし…ごめんね、お前にはまだ辛かったかな?」
「き、喜八郎は…なんで、こんな…」
「ごめんね…」
元々頭がぼんやりしていたせいで、感情ばかりが先行する。
時々不安になるのだ。この行為の意味が…孕みもしない身体と繋がるという事に。快楽だけに溺れるという事に。
「不安になったのかな?」
「ふッ…うぅ…」
喜八郎は涙が止まらなくなった僕を全身で抱き止める。不思議と安心してくるから僕はまた泣きたくなった。
「喜八郎…、愛していますか?」
「もちろん。でなきゃこんな事しないよ…愛してるよ藤内」
「ふぇ…は、い…」
僕は卑怯だ。不安を理由にして、彼の愛を確認する…喜八郎が僕を大切にしている事くらい分かっているのに。
「……喜八郎」
「…なに?」
「続き、してくれますか?」
「大丈夫なの?」
「えぇ…優しくしてくれるのなら」
「…分かった」
また、喜八郎の念入りな愛撫が始まった。
愛を確めなければ愛の行為に身を投じられない僕の弱さを許してください。
「…あッ…喜八郎」
許してください
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