待つ(綾浦←兵)
※年齢操作、オリキャラ、死ネタありにて注意。
あの人は必ず帰ってきます。
「笹山先生!笹山兵太夫先生!」
「ん?どうした優之助。」
今僕を呼び止めたのは、一年は組の子。僕は今この子の担任をしている。
元々忍術学園の先生になるのが夢で、卒業してしばらくはフリー忍者として力をつけてからこの学園に戻ってきた。
何かの縁だろうか。学園に戻ってくるだけではなく、は組にまで戻ってこれた。
しかしまぁ…子供の頃にはわからなかった事が今になって色々理解できる。土井先生って影で本当に努力し、僕らを愛してくれていた事を同じ立場に立って初めて実感した。
「あの…その、」
僕に駆け寄って来た優之助は何か言いたそうにオドオドしている。またい組の子に何か言われたのだろうか。
「本当にどうしたのさ?」
「…笹山先生、忍者の三禁ってあるでしょ?」
「あぁ…忍者の心掛けとして大切なやつだな!それがどうかしたか?」
「笹山先生は三禁を守っているから結婚しないんですか?!」
いきなり何を言い出すのかなこの子は。
結婚していないのは、まぁ良い相手に巡り会わないのと、今は興味がないからだけど…
「いや、僕は三禁を気にして結婚していないわけじゃないよ。いきなりどうしたのさ?」
「私…す、好きな子がいて。そのぉ、くの一教室に。」
あらら。それで悩んで駆け込んできたわけか。青いねぇ、僕にもそんな時期あったかな。
「それで、どうしたらいいか聞きに来たのか?」
「……はい。」
「ん〜…僕はどうしたらいいかはわからないなぁ。」
「大人なのにですか?」
「あぁ、大人でもだ。」
「なんか変なの…」
「そう言うな!…まぁどちらを取るかはお前次第だよ。僕に忍術を教えてくれた先生の中にも奥さんいる人もいたし…お前の人生だからさ。」
(どちらを取ったら幸せになるかなんてわからないよ。)
まだ納得いかないような顔をしている優之助の頭を撫でてやりその場を去った。こんな話をしていたら急にあの人に会いたくなった。
あの人なら何と教えるのかな。
僕は職員の部屋がある長屋の一番奥の部屋に着いた。部屋の主に声をかけ、部屋に入った。
「どうも、浦風先輩。」
「…笹山先生?昔の呼び方になってるよ?」
笑いながら注意してくれたのは、在学中に同じ委員会で時を過ごした浦風藤内先輩だ。現在は忍術学園の事務員として働いている。
浦風先輩が有名なお城からの誘いを蹴って忍術学園の事務員に成ったのは、当時学園全体で大きな噂になった。
他の皆は何があったのかと話題の種にあれやこれやと騒いでいたが、ずっと側にいた僕や伝七にとっては早く静まる事ばかり願っていた。
浦風先輩が残った理由。それは浦風先輩より一年早く卒業した綾部先輩の事だ。
浦風先輩は詳しくは話してくれなかったけど、風の噂で綾部先輩がある大きな仕事に出掛けたまま帰って来なかったと聞いた。その時は死んだかどうか分からなかったけど、あれからもう数年も経っている。死んでしまったのだろう。
浦風先輩は学園に残れば何らかの情報が舞い込んでくると考え、残った。正直僕からしたらとても不毛だと思う。だって、思い出が沢山残っている場所に漂い続けるんだもの。
「はぁ…仕事って疲れますね?」
「ふふ…待っててお茶いれてあげるから。」
「ありがとうございます!」
浦風先輩の部屋にはいつも花が生けてある。それがまるで、いつでも綾部先輩が帰って来ても良いように生けてあるように見えて悲しい気持ちにさせる。
「浦風先輩…」
「ん?」
「さっき三禁を守るべきかと僕が担任をしている子に聞かれました。」
「…っ……。」
「…浦風先輩ならどう答えますか?」
「…わからないよ。」
たとえどちらを取ったとしても失えば一緒だ。
そう浦風先輩が言ったように僕は感じた。
悲しいな、人間って
「浦風先輩?」
「…何?兵太夫。」
「いつまで…待ち続けるんですか?」
「…あの人の指一本くらい帰って来たらね。」
ねぇ、それって。
いつですか。
※
綾部…殺してごめん(爆)
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