もと居た場所へ(竹+藤)
痛みは、やがて




物書きとかが「雨は全てを洗い流す」と時に表現するけど、そんな事は絶対にないと思う

泥が爪の奥にまで入るし、着物だって元の色が分からないほどくすんでしまう

最悪…その二文字を何度繰り返せば良いのだろうか、いや違う…最悪を繰り返してなお僕は何を守ろうとしているのだろう


『お前ばかり立花先輩に可愛がられてッ!』

『なんでお前みたいな愚図が綾部に好かれてんだよ!』

『…君、あの二人と一緒に並べると思ってるの?…恥知らず』


相応しくない、というのは僕だって分かっている…だけどあの暖かな手、声、眼差しは何度も殴られ詰られても…捨てる事が出来なかった

いっそ離れてしまえば全て楽になるのに…それをしない

だから僕はどんな仕打ちを受けようが、それを受け入れなければならない、僕は楽になる事を捨てたのだから

傷は癒える事なくこの雨の様に僕にのし掛かる

無慈悲な月明かりが僕の哀しみを冷たく照らす


雨なのに


このまま、暖かな夢を見ながら…



パシャッ


「おい!大丈夫か?!」

だれ?


「俺は五年の竹谷だッ!しっかりしろ!」


竹谷…先輩?


ずっと僕に降り続いていた雨が止んだ





「…………ン、」

「お!気が付いたか!」


ワンッワン


上半身を起こすと、自分の着物が清潔な寝間着に替えられ、傷の手当てもされているのが分かった…竹谷先輩がしてくれたのか

先輩は雨にずぶ濡れになった犬を布で拭いている

「こいつお前を拾う前に見つけたんだ!…雨の日は寒いもんな」

竹谷先輩はニカッと笑い、同じ布で僕の頭をワシャワシャ拭いた
なんか…人間と動物を同等に扱う姿は先輩らしいな、と笑ってしまった

「んで、お前はなんであそこにいたんだ?」

…なんと答えるべきだろうか。言うか迷っていると、犬と一緒に竹谷先輩の腕に抱かれ、膝に乗る体勢になった


「…うわ!」

ワンッワン


「…俺は生き物を大切にする、だから人間だって大切なんだ…よ〜しよし」

竹谷先輩は…壮大過ぎて僕は正直戸惑っているが、この人は…

「…そういえばお前の名前なんていうんだ?」


癒す側の人間なんだな


「ちゃんとお前の居場所に帰してやらないとな!」

「…居場所なんて」

「そう言いながらも帰ってく奴らを沢山見てるからな!」


「…動物で?」

「あぁ!」

僕を何処に

「…れますか?」


帰してくれるのですか

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リゼ