暖かな場所(藤+団)
なんか、イライラする




「暖かな場所」

最悪だ。
ぼくは、さっきまで会計委員会で決算書を作成して本当に疲れていたんだ。そんな時に兵太夫がからくりなんか仕掛けてくるから…八つ当たり、とまではいかないけどカッとなって彼に怒鳴り付けてしまった。
いつも強情なくせに…こういうのには弱いらしく、涙目になって走り去って行った。

泣きたいのは…本当はこっちの方だよ!兵太夫はいいよ、優しい先輩に自由に好きなことさせてもらってさ!…こっちは怒られるし、自由に寝かせてもくれない!
なんだか…虚しくて、下を向いたら涙が落ちてしまいそうだ。

「…ぅ、…ひっく」

怒っているのに悲しくて、虚しくて…我慢しようと顔に力を入れたら余計に涙があふれてきた。

「ふふ…加藤団蔵みぃーつけた!」

いきなり声がして顔を上げると、いつからそこにいたんだろう。三年生の浦風藤内先輩が立っていた。

「う、浦風先輩?」

なぜ先輩がここにいるんだろ…そうか、確か兵太夫と同じ委員会の先輩だから、兵太夫が送り込んだのかも

「…なんの用ですか!今は関わらないで下さい!」

おもいっきり顔を背け、浦風先輩を拒絶する。一瞬びっくりしたような、呆れたような顔を先輩はしたがすぐに戻りぼくに笑いかける。

「どうしたのそんなに意地になって…」
「ど、どうでも良いじゃないですか!…先輩は何しに来たんですか?!」
「ん?…お昼寝」

先輩はぼくがいる近くの木に寄り掛かりながら座る…変な先輩。

「…先輩、本当に昼寝しに来たんですか?」
「うん、ここ暖かいからね。昨日の夜は遅くまで勉強してたから眠くてね…んで、団蔵は何しに来たの?」
「…ぼ、ぼくは…そのぉ」
「…泣きたいことでもあったの?」
「ッ………」

浦風先輩はなんでもない話をするかのように核心に迫ってくる…なんか心を見透かされてるみたいだ。

「ふふ…団蔵って本当に兵太夫に似てるね」
「はぁ?!あんな強情で我儘な奴と一緒にしないで下さい!!…あ」

浦風先輩はクスクスと笑っている…完全にのせられた!
慌てていると、浦風先輩は腕を伸ばし僕を引っ張る。

「うわぁ!」

ぼくはすっぽりと浦風先輩に抱っこされた。
な!恥ずかしい!

「何するんですか?!」
「いや、本当にそっくりだから…兵太夫と同じ様に抱き締めてあげようかなって」

はぁ?今なんて言った?
あの強情な兵太夫が大人しく抱っこされてるだって?

「先輩!あいつはそんな可愛らしいやつじゃないですよ!兵太夫はいつも人を小馬鹿にする奴です!」

見上げるようにして浦風先輩に抗議すると、先輩は苦笑いをする。

「うん、兵太夫は素直じゃないしすぐ力に頼ろうとするよ…でもね、彼の本心は実はとても単純なんだ」
「……単純?」
「そう、ただのあまのじゃくだよ」
「………ふ〜ん」

よく意味が分からなかったけどとりあえず頷いてみた。

「つまりね団蔵…兵太夫は自分の気持ちを素直に出せないから、大きな力で示すんだ。そうすれば君はどんなに忙しくても振り向くだろ?」

そりゃどんなに忙しくてもからくり出されちゃ…ねぇ。

「…兵太夫はどうして振り向いて欲しいと思う?」
「そりゃ遊びたいから…あ、そうか!」

さっきのからくりも、遊びのきっかけを作ろうとしていたのか!
それなのにぼくが怒鳴ったから…兵太夫傷付いたかな。

急にそわそわしてきた…いまだに、兵太夫が悪いとは思ってるけど…別に兵太夫が嫌いになって怒鳴ったわけじゃないと伝えに行きたかった。

「あの…浦風先輩」
「うん?」
「浦風先輩は兵太夫の事好きですか?」
「もちろん…可愛い後輩だからね…素直じゃないところが玉に瑕だけどね」

浦風先輩はそう言うと舌をペッと出してふざけた顔をする…本当に変な先輩!

「先輩!…ちょっと行ってきます」
「はい…頑張ってね」

浦風先輩はすんなりと、ぼくを離してくれた。
一度浦風先輩にお辞儀をして兵太夫のもとに走った。













「…若いねぇ」
「あ、いらしてたんですか」
「おやまぁ…分かってたくせに白々しい」
「ふふ…仲直り出来ますかね?」
「なんとかなるでしょ…ところで藤内」
「……はい?」
「私たちも…そろそろ仲直り、しない?」
「…どうしましょうか」


「君も素直じゃないね」

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