逃れて(作法)
※年齢操作有にて注意




嗚呼、どうか逃れて



ガタンッ

「あぁ!すみません!」

今日の伝七は様子がおかしい。いつもはしない失敗ばかり繰り返し、今だって化粧箱を倒してしまった

「…伝七、ちょっと残って」

「……………はい」

手のかかる僕の後輩はもう四年生となった。今でも手がかかるのは変わらないけど、大分大人になった
兵太夫は落ち着いてきて、すでにその絶対的な存在感を見せ付けている…立花先輩に似てきたな
伝七はあまり泣かなくなったし、むやみやたらと『い組』と言わなくなった


「…残された理由はわかるかな、伝七?」

「………今日は一年生でもやらない間違いをしたから…」

「…違うよ、伝七は何をそんなに悩んでいるのかな、ってね」

はっと伝七はさっきまで床に向けていた目線を僕に持ってくる
その目はまだ濡れてはないが、折れ曲がった眉が彼の心の中に何かあると告げる

「何でもいいから話してごらんよ…僕は先輩だから、多分伝七が今悩んでいるものも経験しているだろうし…助言くらいは出来るよ」

伝七はしばらく言うか言わないか考えた末小さく口を開く

「………色の授業が」

「……そうか伝七達も、そういう時期になったのか」

忍者たるもの使えるものは何でも使うの…己の身でさえ

上級生にあがると普通の忍術に加え、色など人の心を操るための影の授業が入ってくる
四年生は基礎知識を学び、五年生には実践…六年生ともなれば慣れたものだ

伝七は人一倍成績に拘るから予習なりしたいのだろうが…色の事だし、何より彼にとっては未知の世界だ
年頃だから興味ある半面おっかないのだろう

「……色の勉強をしようにも、なんだかソワソワしてしまって…いや、別に変なこと考えているのではなくてッ」

『あ、綾部先輩…僕はどうしたらッ』

あぁ、似てるな

「大丈夫だよ、伝七」

僕の言葉に伝七が身体の力を抜いた…大丈夫だよ伝七

「僕も最初凄く焦った…どんなに冷静でいようとしてもね、身体が反応するんだ…忍も人間だからね。でもそのうち慣れてくるから…心配いらないよ」

「本当に大丈夫ですか?!変じゃないですか?!」

「うん…大丈夫だよ」

ニッコリと笑ってやると、さっきまで強張っていた顔がいつもの伝七に戻っていく…とりあえず今の内は、大丈夫なようだ

「浦風先輩…ありがとうございました!」

そう言って伝七は作法委員会室を出ていった







「優しいね、委員長?」

「…何しに来た三之助」


音もなく再度開いた戸を見ると、体育委員会委員長の次屋三之助がそこにいた…体育委員会が作法委員会に何の用だ

「回覧板を…保健委員会に持っていこうかと」

「…思ってたら作法委員会に来てしまったわけか」

まぁ、いつもの迷子なら仕方がない…作兵衛も大変だよな

三之助は作法委員会室に入り僕の横に胡座をかいて座る…回覧板はいいのか?

「…あの事は教えないのか?」

「………なんの事だかわからないな」

「惚けちゃって…裏色の授業の事」

「…………………、」

四年生の後半になると、ごく一部の生徒に『裏色の授業』が行われる…それは教師により、見た目が美しかったり、女のような可憐さがある者が強制的に選出され他の奴らとは違う立場の色を学ぶ
言うなれば、女役をするための伊呂波を学ぶのだ

城に就き戦となれば慰みものとして活躍出来る、また身分の高い者ほどこういう趣向を持っている率は高いので、役に立つ授業でもある

実は僕も…選ばれた

しかし僕にはそれを免れる理由があった為、授業は受けていない

『既に先輩に手解きを受けたので今更学ぶ必要はありません』

多分…喜八郎はすべてを知っていて四年生に上がった僕を抱き、裏色の授業までに全てを教え込んだのだろう

立花先輩も、喜八郎もきっと選ばれたのだろうな…

この流れからすると確実に兵太夫や伝七も…裏色の授業を受ける事になるやもしれない


それを知っていて

僕は黙っていた



「…次は、別の理由で藤内に泣きついてくるかもな」

「まだ決まった訳じゃないし…もしそうなったとしても」

同じように助言する事しか出来ない

「…藤内が手解きしてやれば?」

「…二人を抱けないよ」

「じゃぁ俺に貸して」

「駄目」

「…じゃぁ藤内貸して」

「駄目…はないちもんめじゃないんだから」

「ケチだなぁ」

「…僕に手を出したら殺されるよ、多分」

「あー…先輩強いもんな」

「…………うん」


会話をしているのに…どこか静かだ

これが何かの前触れじゃなきゃいいけど

嗚呼…あの子達が逃れる術はあるのだろうか


あって欲しいな
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