貢物(綾浦+滝)
「喜八郎ちょっと待て」
いつも無表情で何を考えているか分からないと言われている私の友人、綾部喜八郎は…また何かをやらかすようだ
この間まで誰だったかを蛸壺に落としたい、と穴堀に精を出していたかと思えば…一昨日は沢山の忍術の本を、昨日はむせかえるような花束を、今日なんてこれでもかというくらいの大福餅を集めて何処かに持っていっている
「なに?私今忙しいんだけど」
「いやいや、喜八郎!お前一体何をやっているんだ?!」
「………何って、」
喜八郎は腕を組み頭を横に傾げるので私もつられてついつい傾げてしまう
「……貢いでる」
「はぁ?!貢ぎ物なんてしているのか!」
あの何に対しても無関心な喜八郎が誰かに貢ぐなんて…しかもこれでもかと言うくらい沢山の量だ。貢がせている奴は相当ヤバイ奴なのか…
「な、なぜ貢ぎ物なんか…」
私の問いに、ほんの少しの変化だが喜八郎の目が優しくなった
「この間、あの子が本を読むの好きだって言ったから」
「………はぁ」
「花を見て、微笑んでたから」
「…………うむ」
「お菓子食べたら、幸せそうな顔をしたから」
「…………ほう」
「だから…あげるの」
あの子がもっと笑ってくれるでしょ?
さも当たり前のように喜八郎は言うが…やはり少しずれている気がするのは気のせいか?
「喜八郎…物には適量というのがあってだな」
「………滝、もう話は終わったでしょ?私は早くあの子の部屋にこの大福餅もって行かないと」
「話を最後まで聞け!いいか?…大福餅1個食べて1回笑ったとしても、100個食べて100回笑うとは限らないものだ!だからこんなにあげては迷惑だろう」
「…なんで?沢山あったら嬉しいじゃない」
駄目だ…喜八郎に常識は通用しないのか
肩を落としたその時、
「すみません、綾部先輩はいらっしゃいますか?」
廊下から声がすると思えば、喜八郎が素早く戸を開く…そこからちらりと若草色が見えた
「藤内…遊びに来たの?」
「いえ、あの…先日から僕の部屋に、贈り物をする人がいるみたいで…」
完全に喜八郎だとバレてるな…おまけに苦情を言いに来たのだろう、まぁ当たり前の結果だがな
「綾部先輩…その犯人を知ってたら、ありがとうございます。と伝えてくれませんか?」
「……わかった」
…うまくいったのか?
喜八郎と戸の隙間から見えたのは…恥ずかしそうに微笑んだ子だった
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