ちょっとそこまで(綾浦)
ある朝私はふと思った、目覚めた横に君がいれば。






休日の朝は誰だってゆっくりしたいだろう。それは忍者を目指す僕達だって同じだ。
悲しいかな身体は習慣が身に付いているので早く目覚めてしまう。まぁ休日だし贅沢に二度寝をしようかと思った矢先、僕の布団に来訪者が現れた。

「藤内。とーない。早く起きなよ置いてくよ?」

「…僕はこんな朝早くにあなたと出掛ける約束をした覚えはないんですが。」

「いいじゃない別に。ほらほら早く着替えて。」

「ちょっ!勝手に脱がさないで下さい!」

あぁ…今ので完全に隣に寝てる同室の数馬を起こしちゃったな。後で謝っておこう。



引きずられるようにやってきたのは、忍術学園から少し離れた小さな町だった。何か買うものでもあるのだろうかと隣に歩いている喜八郎を盗み見るが、何を目的にここまで来たのかは読み取れなかった。
しばらく散策するように歩いていると、喜八郎が足を止めた。

「…ここに何かご用でもあるんですか?」

喜八郎が見ているのは、一般民が住む長屋だった。

「ねぇ。藤内」

やっと連れてこられた真意を聞けると思って目を合わせた僕に信じられない事を言い放った。

「私卒業したらここの長屋に住むから、お前も卒業したら一緒に住むんだよ?」

「はぁ…って何年も先の話じゃないですか?!」

驚いた事に、まだ将来の約束もしていないのに。喜八郎は将来住む家を探索しに来たらしい。なんでも朝目覚めた時に隣に僕がいたら幸せだなと今朝思い立ったかららしい。
もちろん僕達は互いに思いあっている仲だが、そんな関係になったのはつい最近の事である。話が飛びすぎてはいないだろうかと少し呆れた。
でも、素直になればすごく嬉しかった。

「ねぇねぇここらへんなら井戸が近くて便利じゃない?」

今日は少し素直になってもいいかもしれない。

「そうですね…あぁそうそう。一緒に住むなら、お揃いの枕と茶碗と箸、あと湯呑みも必要になりますね!」

素直に、言えた。でも恥ずかしくって喜八郎に顔が見えないように早口でしゃべった。どうしよう。この後どんな顔で喜八郎を見ればいいのか。
そんな僕の焦りを知ってか知らずか、喜八郎が後ろから抱きついてきた。
今日はお店を沢山回ることになりそうだ。
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リゼ