1話 2016.01.04UP
「リョウヘイく〜ん。お風呂の時間…あれ、居ない…」

男性看護士は、キョロキョロと病室を見回した。

「リョウヘイなら、逃げるように部屋から出て行ったぞ?」

リョウヘイの向かいのベッドに入院しているお爺ちゃんの言葉に、看護士は苦笑いを浮かべる。

「に、逃げるようにって…お爺ちゃん、人聞きの悪い…」
「お前さん、好かれとらんの〜。リョウヘイは、大人しくていい子なのに。」
「好かれてない…」
「悪い人じゃないんだが、まだ若いからの。優しさが押し付けがましいんじゃろの。」

男性看護士は、悪口に聞こえる発言をした別のお爺ちゃんを、キッと睨んだ。

「リョウヘイ君は、両腕が使えないんですよ?!」
「んなこた〜、みんな知ってるわ〜。」
「クッ…」
「あんたが、滅多に病院に来れない親に代わって、何から何まで面倒看てることもな〜。」
「だったら」
「子供は子供なりに、気を遣うもんじゃ。まして、あんたは他人なんじゃしの。」
「………」
「前の看護士さんには、よう懐いとったに…可哀想なことじゃ。」

男性看護士は、うなだれて病室を出て行った。

「言い過ぎたかいの〜。」
「仕方ないて。あの人はリョウヘイの、もう一つの病気のことを知らんのじゃから。」
「不憫じゃの〜。」
 
 
 
男性看護士は、屋上でリョウヘイを見つけた。

「こんなところに居た!」
「あ…」

また逃げようとするリョウヘイを追いかける。

「こら、待て!」
「今日、お風呂はいい!」
「昨日も入ってないだろ!」
「明日お母さんに、わっ!」

背後から抱くようにして捕まえる。腕を握ることが出来ないからだ。

「離してよ〜。」
「ハア、ハア…どうして、そんなに嫌がるんだよ?」
「………」
「お爺ちゃん達が言ってたように、オレのことが嫌いだからか?」

リョウヘイは、ピタッと逃げるのをやめた。

「そんなことない…」
「前の看護士には、懐いてたそうじゃないか…嫌いなら、言ってくれ。代わりの看護士は他にも」
「違うって言ってるじゃん!」

リョウヘイが珍しく声を張ったので、男性看護士はビクッと抱くのをやめた。肩を震わせるリョウヘイを見て、前に廻る。リョウヘイは泣いていた。

「ごめんな…」

リョウヘイの前にしゃがむ。

「お…お兄ちゃんは…ひっく…悪くないじゃん…うくっ…謝らないでよ…」

涙を拭きたくても、リョウヘイは腕も手も動かない。
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