五条SSSまとめ

1

キスをしているときの悟の顔が好きだ。伏せられた睫毛が作る影や白磁のような肌、すっと通った鼻筋をこんなに間近で眺められるのが私しかいないというのは実に幸福なことだと思う。
一度キスをしている時に悟の顔を見てしまってから、そういうことをしている時はそっと瞼を開くのがマイブームになりつつある。
かく言う今日も目を開けて悟の顔を眺めている。美しいその顔に触れたくて、悟の背に回していた右手で彼の頬を包んだ。すると、突然悟がその眼を開く。ちゅっと可愛らしい音がして唇が離れていった。

「僕の顔に見惚れちゃった?」

悟が悪戯をした子どものような顔で囁くのを聞いて頬にカアッと熱が集まる。図星だった。
私が視線を彷徨わせるのをじっくりと眺めていた悟がくつくつ笑ってまた口づけてきた。先ほどと違うのは、悟も目を開けたままであること。澄んだ青い瞳と視線が絡んで涙が出そうなほど恥ずかしい。

「僕も名前のキス顔見たいからさ、目開けてていいよね」

ちゅっちゅと軽いキスを落とす合間に呟かれた言葉に硬直する私に、悟は楽しそうに笑ってキスを続けた。



2


今日もいつも通りにタクシーを呼んで家に帰るのだと思っていた。
パウダールームでお化粧を直して悟さんのところへ戻る。当たり前のようにお会計は済まされていて申し訳なくなってくるけれど、以前悟さんにそう伝えた時に「僕がしたいことだから気にしないで」と言ってくれたから、それからはお言葉に甘えることにしている。
恭しく頭を下げるウエイターに見送られて、夜景の見えるレストランを後にする。そしてエレベーター前に着いてボタンを押そうとした時、悟さんが「あのさ」と口を開いた。

「どうかしました?」

振り返ってみると、悟さんは困ったように指で頬をかいて、しばらくしてするりとサングラスを外した。

「上の階のホテル……予約してあるんだけど」

固まっていると、彼がするりと私の手を取り、手の甲にくちづける。

「泊まっていかない?」
「……それは、つまり」
「うん、そういうことだと思って」

無粋な質問にも悟さんは優しく返してくれる。彼の、硝子細工のような透き通った瞳が熱を帯びていることに気が付いて頬に熱が集まっていく。
恥ずかしい、けれど嫌じゃない。覚悟はずっと前からできている。

「ぜひ。連れて行ってください」

悟さんの目を見て伝えると彼は満足そうに微笑んで頷き、上向きの矢印が書かれたボタンを押した。直ぐにエレベーターがやってきて私たちがいる階で止まる。五条さんに手を引かれて乗り込んだ。ドアが閉まるや否や壁に押し付けられ、顎を持ち上げられる。彼の親指が触れるか触れないかぐらいの距離で唇をなぞった。

「リップ、直してくれたんだろ。だけどごめんね」

今から消えちゃうけどと呟いて、悟さんの唇が私のそれに触れた。甘く優しく、いっそ焦れったいほどに。
ゆっくりと離れていく悟さんの唇には桃色に艶めくものが付着していた。私のお気に入りのリップグロスだ。最近購入したそれは好きなブランドの新色で、派手ではないけれど唇を綺麗に見せてくれる。取れてしまうのは勿体ない気もしたけれど、五条さんに移るならそれでいいと思った。おそろいのくちびるに、今度は私から触れる。戯れのようなキスを繰り返して、そのうち深いものへ変わっていった。応えるように彼の首に腕を回すと、間も無くエレベーターが開いた。勿体ぶるようにゆっくりと唇を離して、至近距離で見つめ合う。彼は微笑んで私の頬にキスを落とし、私の手を取って歩き始めた。彼のゆったりとした足取りに合わせて私も足を動かす。
ねぇ、今度は貴方の熱を私に移して。彼の背中を眺めながらそう思った。
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