危険なタイガーアイ

今日は珍しく、傑と二人での任務だった。どうやら広範囲にわたる呪いらしく、それ故に私たちが派遣されたようだ。頑張るぞと意気込むと、傑は無理しないでねと笑った。
予想通りと言えばいいのか、私が頑張る場面はほぼなく、呪霊は傑が瞬く間に祓っていく。瞬殺すぎて呪霊が可哀想になるほどだった。

「お見事」
「……やめてくれよ」

パチパチと拍手を送ると、傑は困ったような、どこか気恥ずかしさを感じているような顔をした。くすくす笑っていると、「置いていくぞ」と傑が早足で歩いて行ってしまう。

「ごめんって。待ってよ」

慌てて追いかけようとすると、傑の手持ちの呪霊が玉をぽろりと落とした。今回の任務で出くわした呪霊が封じられたもので、傑が取り込む予定だから飲み込まないようにと指示が出ていたものだ。コロコロと転がって私の方にやってきたそれを、傑の呪霊が触れるより早く拾い上げる。
金色に輝くそれはまるで宝石のようで、人を襲う呪霊が封じ込められているなんて到底考えられない見た目をしている。光に飾ると玉が妖しく煌めいた。
よかったね、傑に綺麗にしてもらえて。
人を呪い続けることは苦しい。傑に終わらせてもらえた彼らはきっと幸せだと思う。とは言えこれからまだまだ使われるだろうから、休んでいる間などないだろうけれど。
じっと覗き込んでいると、なんだか変な気分になってくる。球が可愛らしく、もっと言うとやけに美味しそうに見えた。
人の負の感情から生まれた呪霊が美味しくないであろうことくらい想像に難くない。だと言うのにそんな行動に出たのは、魅せられてしまったとしか言いようがないと、今なら冷静にそう思える。だけどその時は冷静ではなくて、なぜか禍々しいそれに触れたくなってしまった。
食べるんじゃない、舐めるだけ。少しだけ、ほんの少しだけ。だから大丈夫。謎の自信に支配されて球へ顔を寄せ、口を開いて少しだけ舌を出す。あと少しで舌先が触れそうだ。

「名前!!」

声がかかった瞬間、背後から勢いよく左肩を掴まれてそちらへ向けられる。その拍子に球が零れ落ち、重力に従って下へ落ちた。ハァハァと肩で息をしながら焦った顔をする傑と目があって、頭から冷水を被ったようにすっと熱が引いていく。あれ、どうして私、あんなにあの球に触れたかったんだろう。

「名前がいないと思って戻ったらこれだ、本当に君は目が離せないね」
「ごめんね。でもどうしてだろう……」
「あの呪霊は少々手強かったからね、封じてもなお多少の呪力が漏れ出ていたんだろう」

君はきっとそれに当てられたんだと険しい顔をした傑が言った。傑の手が肩から背中へ回り、彼の胸元へ招かれる。傑の熱を感じて少し安心して、私も彼の背中へ腕を回した。

「全く、君って子は……」

呆れた様子でぽつりと呟く傑に恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。いくらあの呪霊が強かったからといって、封じられているものに魅せられてあまつさえ取り入られようとしていたことにも気が付かないだなんて、バカにもほどがある。祓い終える最後の最後まで気を抜いてはいけないと、呪術師である両親からも口を酸っぱくして言われていたのに。

「あれに口を寄せる君を見た時、私がどれほど衝撃を受けたか分かるか?」

ちょうど私の耳の位置にある傑の胸元から、平静より早い鼓動が聞こえて申し訳なくなる。きっと彼に物凄く心配をかけた。呪霊の危険さを、その味を誰より知る彼を前にして、軽率にあんな行動を取るべきではなかったのだ。

「……ごめんなさい」
「私は謝罪が聞きたいんじゃないんだよ」

抱き締める力が強まって、約束してと、傑が苦しそうな声色で言った。

「もう二度とあれには近付かないって。頼むよ名前」

頷くと彼ははぁ、とため息を零して腕の力を緩めた。するりと肩を撫でられる。

「肩、強く掴んでごめんね。痛くない?」
「大丈夫」
「なら良かった。任務は完了したし、早く帰ろう」

私が落とした玉を手持ちの呪霊に拾わせた傑が、私の手を強く握り締める。指先が微かに震えていて、それが止まればいいと思いながら彼の手を握り返した。もう二度と君にこんな心配はかけたくないから、私、もっともっと強くなるよ。言えない思いも全部伝わればいいのにと思いながら、傑の腕にしがみついた。
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リゼ