赤い聖夜

禪院甚爾と呪詛師夢主。人を殺める描写があるのでご注意ください。




世間はクリスマスシーズン。至る所にイルミネーションが並び、チカチカと点灯してその存在を主張している。それに比例するように街で見かけるのはカップル、カップル、またカップル。もちろんそれ以外の人間もいるが、やたらと目につくのは男女の2人組ばかり。
なんでそんな中で私はどこぞの馬の骨とも分からん術師を見張っていなくちゃいけないんだろう。

「はあ、クリスマスなんか消えればいいのに」

呪言じみた私の呟きを聞き取った禪院がこちらを一瞥して「集中しろよ」と口を開いた。普段は何もかもどうでもよさそうな顔をしているのに仕事はきっちりこなすこの男らしい言葉だった。

「集中してるし。対象は女とラブホテルに入ったっきり出てきませーん」

私も式神も見ているし、対象が動けばすぐに分かる。この男ほどでなくとも私も目がいいのだから。

「さっさと女と別れてくれないかな〜、殺せないんだけど」
「無理だな。向こう2時間、いや3時間は出てこねえよ」

つまらなさそうに言う禪院に「じゃあ今私たちがいる必要なくない?」と聞くと、「1人になる可能性も無きにしも非ずだろ」とめんどくさそうに答えた。こんなところに入って1人になる奴絶対いないって、とは禪院も分かっているだろうから黙っておく。

今回の依頼はある術師を殺すこと。至ってシンプルなそれにどうしてここまで時間がかかるかと言うと、無用な殺傷をするなと言うクライアントからのお達しがあるからだった。殺したいのはその術師だけだから、とかなんとか。ご立派なことで、と思ったけれど、人を殺せと他人に依頼するような奴がご立派なわけがなかった。
しかもこの術師、相当な女たらしで毎日毎日女を取っ替え引っ替えしているときた。依頼されて尾け始めてから3日、未だに1人になる時間がない。あってもトイレに行く数分間とか。それくらいあれば殺すことは可能だけど、後処理が面倒くさい。せめてこの女たちが術師だったら良かったのに、一般人だから尚更。

「見たいドラマがあったのに。本当やだ」

部屋の中央に備えられた、無駄に大きいベッドに寝転がる。見張りのためにと取ったホテルはなかなかランクの高いところらしく、布団も良いものが用意されている。柔らかいそれに身を預けると眠気が波のように押し寄せて来た。どうせあの術師はまだ動かないだろうし、動いたら動いたで式神が教えてくれるだろう。もういいや寝ちゃえ、目を瞑って眠気に身を任せようとすると額に手刀が降ってきた。

「いった……!ちょ、おでこ割れる!」
「気ィ抜いてんじゃねえよ」
「なに禪院、私の眼をあのポンコツ術師ごときが欺けると思ってんの?あの男が動いたら瞬時に分かるわよ」

それより禪院も寝ちゃえば?と彼の首に腕を回す。集中しろと言う割に禪院はあっさり倒れ込んできた。

「なんだ、お誘いか?随分と色気がねぇな」

禪院の右手が私の顎に触れ、少し持ち上げる。そうして唇が触れそうになった時、私の式神が短く鳴いた。勢いよく起き上がり、意識を集中する。禪院は肉眼で向かいのホテルを眺めていた。

「動いたな」
「動いたね」

対象は女と別れ、1人で歩いている。この後任務が入っているから絶対に1人になるだろうと想定していたのだ。任務を放棄する可能性もあったけど、今回は上からの圧力があるから、少なくとも遅刻はしないだろうという予想も当たった。
想定より出てくるのが早いのは、きっと女に振られたんだろう。ざまあみろ。
ちなみにこの任務というのも私が手を回して対象が担当になるように仕向けた。対象はそんなことにも気が付かず、ノコノコ殺されにやって来るというわけだ。つまらないような気もするし、術中に嵌った対象を愚かだとも思う。

「んじゃ、さくっと終わらせますか」
「終わったらメシ食いに行こうぜ」
「いいね、行こう」
「ドラマはいいのか?」
「もう放送時間過ぎてるから諦める」

それより呑みたい気分だとグラスを傾ける仕草をすると禪院は口の端を上げた。実は、禪院のこの笑い方は結構好きだったりする。

「なら尚更さっさと終わらせねぇとな」
「そうね」

集中して対象の呪力を探し、術式で空間と空間を繋げる。これで対象の前に瞬間移動できるというわけだ。

「対象は任務を遂行中。場所は情報通り路地裏だから人が来る心配はなし。呪霊は弱いけど、想定より数が多いから注意して」
「了解」
「後は作戦通りね。3、2、1で行こう」

アイコンタクトを取って、カウントを始める。1を言うが早いか、禪院と同時に渦の中に入り込んだ。私は対象の近くに、禪院は対象の死角にそれぞれ配置される。
私の姿を見た対象が驚いている。突然人が現れたら当然の反応だと思いながら呪具を構えて走った。対象は目に入った私にしか意識を向けておらず、背後から近寄ってくる禪院に全く気が付いていない。

大丈夫でしょ、私とアンタなら。それを裏付けるように禪院の呪具が対象の首を貫いた。
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