☆想いに気付かないんです。
 2019.12.16 Mon


「――…いよいよ、Xデーね!」

高らかと部屋に響き渡る、蝉玉の声。

「あ、そうだわ!」
「楽しみね!」
「そうじゃのう」
「今年は何があるのかしら?」
「え、えっくす、でー?」

それに、わぁっ!と盛り上がる周囲に対し、自分一人だけ乗り切れずに眉を顰める。そんな此方の様子に一早く気付いた赤雲が、ほら!と人差し指を立ててウィンクする。

「クリスマス!」
「あ、ああ……」
「貴女も楽しみにしてるでしょ!」
「ん、大きな宴会があるもんね!」
「そうじゃないわよ!」

と、碧雲がググッと身を乗り出してきて、その勢いに思わず身を引いてしまう。すると、これこれ碧雲と笑って窘める竜吉公主の隣、お茶を飲んでいた蘭英が、そういえば、と此方を見た。

「今までのクリスマス、彼から何を貰ったの?」
「え、か、彼って、誰?」
「またまたー!太公望以外に誰がいるっていうのよ!」
「え?いや、蝉玉、沢山いるよ?」
「で、何を貰ったの!?」
「え、いや――」
「皆、そう問い詰めるでない。当然沢山貰っておるのじゃから、どれを答えようかと困っておるではないか」
「え、あの、公主?当然って――」
「じゃあ、何が一番印象的だったのかしら?」
「あ、それいい!私も気になる!」
「うむ、それは気になるのう」
「正直に言うのよ!」
「包み隠さずね!」
「え、えーっと……一番印象的……一番印象的……」

五方向から浴びせられる言葉と輝く眼差しに、答えを拒否する間も与えられず。何々!?という声に促されるままに反射的に考えてしまって、何かな何かしら何かのうと盛り上がる五人から目を天井に向けて、うーんうーんと思い出してみれば……あ。

「……指輪、かなぁ」

瞬間、ピタッと、あれだけ盛り上がっていた五人が、同時に綺麗に止まった。ジイッと、強い視線が此方に向けられる。

「……え、な、何?どうしたの、みんな?」

何か、変な事を言っただろうか。いや、ちゃんと、質問に正しく答えたとは思うけれど……と息を呑めば、赤雲がまた人差し指を立てた。ただ、さっきとは違って指は震え、笑みは引き攣っているけれど。

「……確認、なんだけど」
「え、何?」
「太公望と、まだ、付き合って、ないんだよね?」
「!も、勿論だよ!!そんな、有り得ない!!!」

私が彼を想っているという事は、この五人、それどころかかなりの人にバレているだろうし、それは私からの一方通行で、単なる同僚という関係性である事は、誰もが知る事実である。赤雲も知っている筈なのに、何て事を言い出すのかとビックリして大きな声を上げてしまった。が、此方の大声にも、五人の曇り顔は一切動じず。

「……嘘、でしょ?」
「いや、嘘じゃ、ないけど――」
「いや、貴女を疑っているんじゃなくて……何で、そんな物まで、贈られているのに……」
「え?」
「儂にも分からんのじゃが……何とも思ってない者に、他の物ならともかく、指輪を贈るという事は、普通にある事なのか?」
「ああ、それは、日頃の仕事へのお礼だって」
「……それを、貴女は、素直に、丸っと、信じ込んだの?」
「え……もしかして、嘘だったの?」
「いや、嘘というか……ねぇ、サンタクロースは信じてる?」
「え、サンタさん?まぁ、いてほしいとは思うけれど……」
「……私、貴女が大好きよ」
「え?何、突然?」
「私も、大好き」
「儂も、心から好ましく思っておるよ」
「え?え?」
「素直な貴女の事も、とても不憫な太公望の事も、ずっとずっと、応援してるから」
「来年も、そのまた次の年も、そのままの貴女でいてね」
「?」

よく分からないけれど、好意を寄せてもらえるのも、何故か太公望を含めて応援してもらえるのも、今のままでも良いと言ってもらえるのも、素直に嬉しくて。だから、ありがとう、と笑うと、無言の五人に五方向からぎゅっと抱き締められた。ちょっと息苦しくなったが、やっぱり嬉しかった。


……まさか、窓の外に、黒髪をわしゃわしゃ掻きながらむすっと口を尖らせていた同僚がいたとは、くしゅっと彼がくしゃみをするまで、気が付かなかったのだけれど。



あとがき。


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