視えない未来です。
 2019.08.30 Fri


「……『占い』って、信じる?」

何の前触れも無くそう呟くと、目の前の大きな目が更に大きくなった。

「ど、どうしたっスか、急に?」
「いや、今日、私達と武吉君で周に行ったでしょう?で、二人と少し別行動をした時に、立ち寄ったお店の近くに占い師さんがいて。それで、待ち合わせまで時間もあったし、ちょっと占ってもらったんだ」
「そうだったんスか……で、何を占ってもらったんスか?」
「……人間、関係」

そんな、いつもみんなと楽しそうじゃないっスか!と橙色の手袋を振って励ましてくれた彼に、ちょっと胸がちくりとする。何せ、かなり遠回りな表現をしてしまったから。とはいえ、貴方の御主人で、武吉君の師匠(仮)で、私の同僚との相性だよ、なんて真正直な事、とてもじゃないが言えなかった。

「それで、結果は?」
「……余り、良くなかった」
「はぁ……」

そう反応に困らせてしまい申し訳無いが、これでも良い言葉を選んだつもりだ。実際は、余りどころか、最悪と言っても過言ではない結果だった。

「……まぁ、そんな事があったから、四不象は占いをどう思っているのかなって」
「そうっスねぇ……僕は経験も無いし、そういう事に詳しくないっスから……」
「そっかぁ……」

それは、自分も同じだ。専門家には根拠があるのだろうけれど、知識の無い自分には、何故その結果になるのかも、信憑性がどれ位あるのかも分からない。なのに、結果を聞いた時は愕然とし、それからずっと、今も、心が重苦しいまま。
唇を曲げて溜息を堪える此方に、返答を探して目を泳がせていた四不象が、そうだ!とパアッと顔を明るくした。

「――…御主人も、占いが得意っスよ!」
「……んー……」

その笑顔と申し出は嬉しいが、素直に受け入れる事は出来ない。まさか、まさに今日の占いで相性はこれ以上無い位に有り得ないと占い師に断言されてしまった想い人に、占いを頼める訳が無い。ましてや、貴方との相性を視てほしい、だなんて。

「御主人の占いなら、きっと良い結果になるっス!」
「……確かに、そうだね」

四不象が声を張って言う通り、十中八九、良い結果を言ってもらえる。何たって、彼は、とても優しいから。どんなに悪い結果が見えても、その真実より、優しい嘘を聞かせてくれるだろう。
しかし、あの彼が、占いを得意とするとは……手品だったり占いだったり、奇抜な特技を持っている。何だか彼らしいなぁなんてちょっと口元が緩んだが、ふと、気になった。

「それは……手相、だったの?」

今日の占い師もそうだったし、自分の中での占いといえば、の手法を口にしたら、四不象は呆れたように目を細める。

「いやーそれが、元始天尊様から貰ったばかりの宝貝を使ったり、鰯を使ったり、ヘンテコなのばかりだったっスよ……」
「そう……」

でも、もしかしたら、四不象の知らないところで手相もしていて、その相手が、女性で――なんて根拠も何も無い事を考えてしまえば、あったかも分からない、遠い昔の、そんな事にすら、嫉妬を覚えてしまう。今までずっと、そんな事すら、してもらえない間柄のままだというのに。

「………」

ずっと、単なる同僚のまま、特別な事が何も無いまま、このままの関係なのだろうか。それどころか、単なる同僚の彼に、特別な人が出来て、このままの関係すら保てなくなるのか。占い師ではない自分には、欠片も視えない未来。期待できない、不安しかない、私の、未来――…。

「――…一度、御主人に占ってもらうっス!」
「っ!」

その明るい声に、ハッと顔を上げる。前には、此方を真っ直ぐに見つめる、輝いた瞳。その見えない力にちょっと身を引くと、四不象はニコッと嬉しそうに笑った。

「悪い結果は、良い結果で上書きしちゃうっスよ!悪い結果で縮こまったままなんて、勿体無いっス!」
「――…!」

四不象の言葉に、何故か、何かがふっと晴れた気がした。結果を上書きできるかなんて、それこそ根拠の無い話だろうに、何でこんなにも心強いのだろう。ああ、本当に優しくて、安心する。

「……ん、そうだね」

……今度、頼んで、みようかな。

きっと、嘘が見える結果であっても、彼が聞かせてくれるのならば、哀しいかな、それだけで自分は嬉しくなってしまうのだろう。

「ありがとう、四不象!」
「いえいえ、どういたしましてっス!」

わぁっ!と手を挙げた四不象の橙色の手袋に、釣られてわぁっと手を差し出して、何故か二人でバシッと手を合わせて。それから声を出して笑い合ってから、少し熱を持った掌をふと見つめる。

……けれど、もしかしたら――…。

「………」

この手を、あの大きい橙色の手袋が包んで、優しい青色の双眸が見つめてくれる。そんな未来も、万が一には、あるのかもしれない。視えない未来だからこそ、出来る事が、あるのかもしれない。

取り敢えず、すぐ目の前の未来を変えよう。この後すぐ、周で買ってきたお菓子を渡しに――いや、ちょっと勇気を出して、一緒に食べようと、太公望を誘ってみようかな!




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