呟き小話です。
 2019.07.03 Wed


喧嘩の余韻を残して迎えた気だるい朝、帽子を被れば中に何か入っていて、取って見れば『ごめんなさい』の一言が書かれた紙片。紙の面積に対し文字はとても小さく、しょげる彼女の表情が見えてくるようで、この為にわざわざ深夜に忍び込んだのかあやつは、なんて笑いが零れた。ああ、今すぐ、会いたい。

1:仲直りしよう



……あ、これ良いなぁ。

ふとそう思った事を、今になって思い出した。約一ヶ月前の気持ちがこんなにも鮮明に蘇るとは、自分でも驚きだ。……まぁ、何たって、今こうして、その実物が目の前にあるのだから。
驚きで丸くなった目を上げれば、おぬしに似合うと思ってのう、と青い目が楽しそうに細まった。

2:とてもよく見ている青目



「……もう少し此処にいたいのだが」

そんな、彼にしては珍しい言葉に、疲れさせちゃったかなと申し訳無くて、そうだ、飲み物でも、と立とうとすると、彼は此方の手を取って。

「……二人で、いたいのだが」

そんな、彼にしては珍しい我儘と赤ら顔が、くすぐったくて。

3:#愛してるを使わずに愛を伝える



はぁ……と、隣からそれは大きな溜息が。どうしたの?と桃から口を離して訊けば、え!?あ、いや!あのだな!!と散々アタフタしてから、彼は頭をクシャクシャ掻きながら、愛とか、永遠とか、唯一の人とか……と何やらブツブツ呟き出して。一体何の話だろうと首を傾げると、彼はむすっと口を尖らせる。
そういうものに、わしは縁も執着も無かった筈なのだが……とまた溜息を吐いて、此方を見るや三度目の深い溜息。え、もしかして私のせい?と眉根を寄せれば、彼はまた困ったように頭を掻き、それから白い帽子をグシャリと握り締め、ポツリと呟く。

……おぬしといると、欲しくて堪らなくなるのだ、と。

4:思いがけない欲



「絶対に桃の味」
「まぁよく食べておるからのう。しかし、それ位でその味になるか?」
「……実際に、した事、あるから」
「は?」
「……桃の、味」
「?……――!」
「………」
「……今も、するかのう?」
「え――っ!」
「……どうだった?」
「……言うんじゃなかった」

5:彼を食べたらどんな味?



「さぁのう」
「んー、茉莉花茶はよく飲んでるけど……」
「どうかのう」
「……考えてくれないんだ」
「おぬしの味をわざわざ定義付ける必要は無い」
「まぁそうだけど……」
「……おぬしの味は、わしだけが知っていれば良い」
「……え?」
「のう?」
「……ん……ん?」

6:彼女を食べたらどんな味?



「……大丈夫か?」
「んー……」
「最近忙しかったからのう。そろそろ戻るか?」
「やぁ……」
「……そんな声を出すでない」
「……寝たら、今日が終わっちゃう」
「む?」
「……せっかく、こうして一緒にいられるのに……」
「……うむ。意地でも部屋に戻す。色々危ない」

7:眠そうな彼女とそこは紳士な彼



「暑い暑いってぼやく割に、いつもの服は勿論、寝間着すら薄い服にしないんだから」
「そうブツブツ言うおぬしは身体を冷やさぬよう、いつもの服と同様、寝間着も薄着を控えるべきではないか?」

そんなチクチクとした遣り取りに、間の普賢はただただニコニコと笑う。

……ああ、毎日毎日あついなぁ。

8:何で相手の寝間着の厚さを知ってるの?なんて野暮野暮




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