強い風です。
 2018.05.27 Sun

頭上を見上げれば枝は大きく傾き、足元を見下ろせば葉は勢い良く舞い飛び、周囲を見回せば皆の髪はその持ち主を執拗に攻撃していて。

「………」

ただ自分はというと、皆と同じように外にいるというに、歩くのに四苦八苦する事も無く、髪は歩調に合わせて軽く揺れているだけ。……まさか。

「……宝貝、使ってる?」

隣にジロッと細目を向ければ、隣の青目はそっぽ向く。

「何の話だ?」
「……周りの風を弱めてない?」
「いやいや」
「じゃあ、何で私の目を見ないの?」
「お、ほれ、葉っぱがあんな所まで飛んでおるぞ」
「興味無いでしょ」
「大アリだ。風が強い事が良く分かる」
「体感無いけどね……全く、こんな事に宝貝を使わなくても……」
「だっからわしは使っておらぬと――っ!!!」

と、彼が此方に顔を向けた瞬間、背後の樹々がザワッと大きくざわめき、

「――っ!!?」

突然、目の前が真っ暗になった。実際は、ただ強風で体勢を崩した彼が此方に傾いてきた訳なのだが、その黒髪に一気に視界を遮られ、驚きの声を咄嗟に発しかけた口は、何かに強く、柔らかく阻まれて。
一瞬のその体感に、まさか、と先よりも大きく見開いた目に向かって、ゆっくり離れていく彼の唇が、やはり打神鞭は必要だったようだのう、なんて穏やかに微笑み、青い目は意地悪く細まった。思わず身を引けば、しかしそれ以上の力で風に背中を押され、反射的に彼に抱き付いてしまい。そのまま、だ、打神鞭を、使って下さい……と彼の口端に触れてしまった唇を震わせ、涙目で懇願する羽目になった。

……私にそんな事をさせた強風が何処から来たのかなんて、考える由も無かった。


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