「愛してる」んです。
 2018.02.26 Mon

一人が「愛してる」と言い続け、もう一人がそれを真正面から受け続け、どちらが先に照れるかを競うという意味が分からない遊びが、何故かこの仙人界でも流行っているらしい。

「……よく分からないね」

そんな噂話の最後に苦笑した隣の彼女に、此方の頭の上で電球が光った。だから、大袈裟にニヤリと笑ってみせる。

「……おぬしには、出来ぬ事だしのう」
「え?」
「照れずに言い続けるなど、おぬしには不可能であろう?」
「なぁ――っ!!?」

無理だ無理だと畳み掛ければ、彼女は分かりやすくカァッと顔色を変えた。羞恥心ではなく反抗心に由来するその紅潮は、思った通りの反応で。

「っで、出来るよ!」
「そうか?」
「出来るったら!!」
「どうかのーう?」
「絶っ対に出来るっっ!!!」
「ならば今やってみよ」

目を細めて挑発するように首を傾げれば、彼女はぐぅっと唸ってから、キッと歯を剥く。

「った、太公望こそ、すぐに照れないでね?そんな簡単に勝負が付いたら、つまらないんだから!」
「分かっておる」

そう即答したが、実際、勝つ自信はあった。彼女が、「愛してる」と言い続ける。そんな様子を想像すれば、照れる前に可笑しくなってくる。
負けず嫌いな彼女の事だ、愛の言葉を言っては真っ赤になり、でも負けを認めたくなくて、必死で言い続ける事だろう。此方は貴重な言葉を聞けて、貴重な表情を見れて、まさに一石二鳥――…と、彼女がワナワナ震える唇を開いた。……お、言うか。

「……あ――…」

――…が、

「……あ……あ、いし……あい……」
「………」
「……あい、し……あ……あ……」

途切れ途切れの、何を言いたいのか全くよく分からない言葉……というか文字。一向に、最後まで辿り着く気配が無い。

「……あ……あい……あ……」

目は泳ぎ、唇は震え、頭から湯気が見えそうな位に、顔は真っ赤。

……そう来たか。

これは、流石に想像していなかった。こんな欠片も隠せていない照れ全開な彼女を前に、平然としたまま照れずにいられる訳が無い。ああ、自分でも嫌になる程に、自分の顔が熱くなってきたのが分かる。

「……あ……あい……」

それでも果敢に挑戦し続ける彼女に堪え切れず、降参の意を込めて抱き締めた。
その後、あーもー愛しておる、と敗北宣言までしたかどうかは定かではない。彼女が可笑しくて、可愛くて、愛おしくて、もう何が何だか分からない状況であったから。取り敢えず、モゴモゴ言いながらもぞもぞ動く彼女を、強く押さえ込んでやった。

……ったく、こやつは、本当に悪いヤツだのう。主に、わしの心臓に。



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