特別なお茶と貰った桃です。
 2018.01.28 Sun

「――…今日も寒いのう!」

部屋に響き渡った一声に、書物からハッと上げられた目は大きくなり、そしてグッと細まった。

「……で、何で私の部屋に?」
「外から戻ってきた時、わしの部屋より此処の方が近いからだ」

そんな青目を瞬きさせながらのキッパリした返答に、思わず眉根が寄る。

「だからってね――」
「何か温かい物を貰えぬか?」
「……はいはい」

此処は茶屋じゃないんですけど、とぼやきつつ茶器に入れたのは、普段使いのとは違う、それなりに高級な茶葉。

「おぬしの淹れるお茶は美味しいからのう」

ガタリと椅子に座りながらの一人言に、それはそうでしょう、と一人言が零れる。

「……また寒い中、採ってきたの?」
「うむ」

そしてまた彼がこの部屋に来て、此方はまたこうしてお茶を二人分淹れて、彼のいる机まで持っていって、

「ほれ、おぬしの分も採ってきたから、今日も遠慮無く食べよ!」

そう笑顔で差し出された、外気で冷たくなった彼の大好物を、温かいお茶を飲みながらまた二人で食べて、何とも無く会話して。

「今日もスッキリしない天気だのう。陽の光があれば、少しは違うのであろうが……」
「……寒いなら、行かなきゃいいのに」
「仕方無かろう、食べたかったのだから」

だからといって、近いという理由だけで突然此処へやってきて、温かい飲み物をねだってくるなんて。彼らしくない配慮に欠けた振る舞いは、それだけ気を許してもらっているからか、或いは気を遣う程の人と彼に思われていないからか。

「………」
「………」

それでも、いつも良い茶葉を用意しておいて、いつでも彼を出迎える準備をしている自分がいる。たとえ茶屋代わりに思われようと、また、自分の所へ、来てもらえるように。

「……お茶、どう?」
「……うむ、やはり美味しいのう」

その返答を貰ってから、たった一口含んだだけなのに、彼から貰ったこの桃は、私には甘過ぎて。だから、少しぬるくなってしまった、いつもより特別なお茶を、一気に飲み干した。

「……寒いのう」
「……ん、寒いね」

窓の向こうに広がる空は、相も変わらず熱の無い灰色で。手の中の茶器は、既に熱を失っていて。
言葉を交わす為に吐く息だけが、少しばかり熱を帯びていた。


あとがき。


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