続々々・11月11日です。
 2017.11.22 Wed

――…ポキッ。


そんな軽い音が、唇のすぐ其処で鳴った。次いで、その少し向こうで、パキポキと小気味良い音が鳴り始めたので、ギュッと瞑っていた目を恐る恐る開けば、その音に合わせて上下する顎が見え。やがて、コクンと前に立つ人の喉の辺りが動き、部屋は静まり返った。

「………」

思わず、自分の分を咀嚼する事も飲み込む事も忘れ、ポカンとしてしまった。端から見れば、細くて短い焼き菓子をくわえたまま呆然としているなんて酷く滑稽だろうが、しかし、すぐには動けなかった。前の彼が訝しげに頭を横に傾けたので、ようやく噛み出せた位。そのまま唇の先から喉の奥へ送り込めても、視線をちょっと下げて、また呆然と固まってしまった。

「………」

……何だろう、この気持ち。いや、今日はこの日だから、と仕事終わりに突然竹串のように細くて長い焼き菓子を見せられ、今年は何もせぬ!と何度も言われ、年に一回のイベントならば楽しみたいし、香ばしくて甘い焼き菓子も食べたいしで渋々受け入れた訳で、それで、彼が言った通り、ちゃんと、何も無かった訳で……そう、これで良かった、良かったんだけど……だけど……。
釈然としない気持ちで、それが自分でも不思議で、何と無くモヤモヤしたまま視線を上げると、彼が好奇に満ちた青目を此方に向けていて。

「……何?」
「いやのう、それは驚いた顔をしておるから、面白くてのう」
「……べ、別に、驚いては――」
「あーそれとだな」
「何?」
「少しだが……残念そうでもあるのう」
「っ!!!」

思わず、ビクッと小さく反応してしまった。それを誤魔化す為に、慌てて口を大きく開く。

「っざ、残念って、そんな事ある訳――!!!」
「大きな声で否定とは、随分と力が入っておるのう。それでは、肯定しているのと同じではないか」
「ちがっ、そんな、違うから――!!!」
「全く、何を期待しておったのやら……」
「っだ、だから、期待なんて、何も――っ!!?」

瞬間、グッと顎を取られ、頭が前に傾き、唇のすぐ前に、彼の唇。息を呑み込む事すら出来ずただただ驚きに固まったままの此方に、くくっと彼が喉奥を鳴らした。

「……おぬしは、えっちだのう」

それに対する否定の声は、彼の唇に呑み込まれた。


――…チュッ。


そんな軽い音が、唇で鳴った。次いで、その少し向こうでニッと意地悪く微笑まれたのに、恐ろしい事に、その笑みに高揚する自分がいて。やがて、彼の両手がスッと此方の両頬を包み込み、その後、この部屋は二度と静まり返らなかった。



あとがき。


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