思い出のハンプティ
ヴェロニカターン
込み上げる欠伸を、ヴェロニカは噛み殺した。
この歳になって、しかも日本で、エッグハントをやることになるとは思わなかった。
ヴェロニカとクリスの母国は小さな国で、その更に小さな田舎の村で育った。
住民のほとんどが親戚という村でも、数少ない子供たちのために大人はイースター祭をしてくれたものだ。
大人たちが村中に隠したイースターエッグを、誰が一番多く見つけられるか競っていたのは、懐かしい思い出だ。
ふと芽生える郷愁に、ヴェロニカは自嘲するように唇を釣り上げた。
この自分が、咲の発案如きにノスタルジーを刺激させられるとは、馬鹿馬鹿しいものだ。
そもそも、咲はエッグハントが子供の遊びだと理解しているのだろうか。
イースターを理解していなかった咲のことだ。どうせ、偶然知ったエッグハントというゲームがやりたくて、寮生を巻き込んだだけなのだろう。
自分よりも年上のはずの咲だが、ゲームに食いつくのだから、まだまだ子供だ。
……思考回路がおこさまだから、身長もおこさまなんじゃないか?
「……ふっ。」
ふと浮かんだ言葉に思わず笑みがこぼれた。
こんなことを考えていただなんて、咲に知られたら猛烈な反論が返ってくることだろう。
そういえば、故郷には咲によく似た馬鹿がいた。
あいつだったら、どこに隠すだろうか…。
『ばっかだなぁヴェロニカ!まだタマゴ見つかってねぇのかよ!』
記憶の中の彼が僕に言う。
確か、綿雲が飛ぶ青空の日だったと思う。
村外れの森の入り口で鉢合わせした彼は、卵を持っていない僕を見るや否や、笑いだしたのだ。
『ほ、ほっといてよ!今さがしてるんだから!』
ワンピースの裾を固く握り締めた、かつての僕が叫ぶ。
踵を返して、村と森の境目をずんずん歩き出すも、彼はニヤニヤしながら僕の後ろをついてくる。
『ついて来ないでよ!』
『おいおい、オレはお前にヒントをあたえてやろうと思ってんのに、そんな言いかたはねぇだろ?』
『はぁ?なによヒントって』
『タマゴをかくした大人の考えをよむのさ』
『むちゃくちゃなヒントね。ちなみにアンタだったらどこに隠すのよ』
『オレか?オレなら…─』
あの日、少年は空を仰いだ。
「……上、だねぇ。」
呟き、ヴェロニカは口端を釣り上げた。
ちらりと目線を上げれば、天井から下がるいくつかの白熱球。
……これだ。
ゆっくりと歩を進め、一つ一つの電球を確かめていく。
五つ目の電球を確かめ、次を目に入れた。
「……みぃつけたァ」
白熱球の代わりに、固定された卵を見つけた。
卵には様々な色でネコが描かれている。狙い通り、咲の卵だ。
くすくすと、喉の奥から笑みが溢れる。
「馬鹿と猿は高いところが好き…ってね。くすくす」
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