ペトロズティアー
やませターン
重い足取りで廊下を進みながら、やませは溜め息をついた。
どうしてこうなった、という思いが拭いきれない。本当にどうしてこうなった。
咲が突飛な行動に出るのはもう慣れた。
だから、いつも通り緩く周りに流されていれば、それなりに楽しくなるだろうと高をくくっていた。
そう、高をくくっていたのだ。
階段、書庫、管理人室、消化ボタンの蓋を開けることまでしたが、どこにも卵は見当たらない。
自分が侮っていたのだろうか。
やるせない気持ちと共に舌打ちがこぼれる。
たかがゲームに本気になる奴らも奴らだが、奴らの本気の"隠れんぼ"に、ムキになる自分にも嫌気がさした。
卵が見つからないくらいで苛つく自分に、さらに苛々する。
いっそ屋上でサボってしまおうか。いや、それでは後からヴェロニカ辺りにからかわれるのが目に見えている。
「……かっこわる。」
一人、呟いた。
とりあえず、頭でも冷やそう。
確か、冷蔵庫に自分のお茶が残っていたはずだ。
だるい足を引っ張り、冷蔵庫を求めて台所へ向かった。
冷蔵庫を開けて、自分の名前のラベルが貼られているペットボトルを取り出した。
そのまま冷蔵庫を閉じようとしたが、ふと違和感に襲われた。
これは、何の違和感だ?
開けかけたペットボトルのキャップを閉め直し、冷蔵庫の中をまじまじと見る。
如月寮の冷蔵庫は、流石寮なだけに、業務用で大きい。
一番大きな扉の中には、一般的な冷蔵庫と同じく、チルドルーム、卵ケース、冷蔵室と分かれている。
冷蔵室は上段中段下段と、三段に分かれていて、中身はきっちりと整理されている。料理番の性格がよく出ているのだろう。
何が、こんなにもやもやするんだろうか…。
いくら探しても原因が分からない。
そもそも、自分が探すべきは冷蔵室の異変ではなくイースターエッグだ。
まさか…と思い、卵ケースを開けたが、流石にイースターエッグは隠されていなかった。
予想通りの結果に苦笑する。
こんなところに隠すというひねくれた発想は誰もしないか。
諦めて、冷蔵室を閉めようとした。が、中段に置いてあるコップが気になった。
そうか、違和感の元はこれか。
生真面目な寮母は、無造作にコップをこんなところに置かないだろう。
腕をコップの柄に伸ばす。
コップの中には、白い卵。
なんだ、普通の卵か。
おおかた、ゆで卵でも作ったのだろう。
落胆して、恨めしげに卵をつまみ上げた。
「………あ。」
卵の白い表面、黒のマジックペンで書かれた"十花"の文字。
あんの、クソガキ。
うっかり卵を握り潰しそうになるも、慌てて堪える。
どうやら、我が妹は思った以上にひねくれて育ってしまったらしい。
「全くもう…。お兄ちゃんは妹の将来が不安だよ。」
一口お茶を飲む。
玄米茶の渋さに、やませは苦笑した。
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